約 4,455,880 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1847.html
魔法少女リリカルなのはGoodSpeed クロス元:スクライド 最終更新:08/02/28 Chapter1<<Erio>> TOPページへ このページの先頭へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/785.html
なのは×終わクロ クロス元:終わりのクロニクル 最終更新:08/03/29 序章『聖者の行進』 第一章『佐山の始まり』 第二章『二人の出会い』 第三章『彼方の行方』 第四章『君の印象』 第五章『過去の追走』 第六章『意思の交差』 第七章『初めての再会』 第八章『これからの質問』 第九章『意思の証』 小話メドレー クロス元:多数あるため割愛 最終更新:08/03/30 1st 2nd 3rd 4th 5th 魔法少女リリカルなのはFINAL WARS クロス元:ゴジラ FINAL WARS 最終更新:08/05/24 ミッドチルダ1~愚挙開始~ ミッドチルダ2~繁華街戦~ ミッドチルダ3~摩天楼戦~ ミッドチルダ4~千年竜王~前編 ミッドチルダ4~千年竜王~後編 拍手感想レス :すっごく面白そうです。なのはHEARTSぜひ始めてください。 :続きが楽しみでなりません。他にも両作品の出雲や風見、ユーノ君なども登場してほしいところです。 :人間シリーズで高町家の人たちや友人たちとの再会が見たいです。 TOPページへ このページの先頭へ
https://w.atwiki.jp/nanoha_data/pages/26.html
トーマ一行 トーマ・アヴェニール リリィ・シュトロゼック アイシス・イーグレット スティード 管理局特務六課 高町なのは スバル・ナカジマ フェイト・T・ハラオウン ティアナ・ランスター エリオ・モンディアル キャロ・ル・ルシエ 八神はやて シグナム ヴィータ シャマル ザフィーラ リインフォースⅡ アギト シャリオ・フィニーノ アルト・クラエッタ ルキノ・ロウラン フッケバイン ヴェイロン アルナージ サイファー ドゥビル フォルティス ステラ・アーバイン カレン・フッケバイン トーマ・アヴェニール(一人称:俺) リリィ:リリィ アイシス:アイシス スティード:スティード、相棒(バディ) スバル:スゥちゃん ティアナ:ティアさん アルト:アーちゃん チンク:チンク姉 ノーヴェ:ノーヴェ姉 ヴェイロン:ヴェイロン サイファー:サイファー ドゥビル:ドゥビル フォルティス:フォルティス ステラ:ステラ リリィ・シュトロゼック(一人称:わたし) トーマ:トーマ アイシス:アイシス スティード:スティード スバル:スゥちゃんさん アイシス・イーグレット(一人称:あたし) トーマ:トーマ リリィ:リリィ スティード:スティード スバル:スゥちゃんさん アルナージ:アル パフュームグラブ:パフィ スティード(一人称:私) トーマ:トーマ なのは:高町教導官 高町なのは(一人称:わたし) スバル:スバル ヴィータ:ヴィータちゃん はやて:部隊長 ヴィヴィオ:ヴィヴィオ レイジングハート:レイジングハート スバル・ナカジマ(一人称:あたし) トーマ:トーマ なのは:なのはさん エリオ:エリオ フェイト・T・ハラオウン(一人称:私) トーマ:トーマ スバル:スバル ティアナ:ティアナ、ティアナ執務官 エリオ:エリオ ティアナ・ランスター(一人称:あたし) シグナム:シグナム一尉 アギト:アギト フェイト:フェイトさん エリオ・モンディアル(一人称:僕) トーマ:トーマ スバル:スバルさん ヴィータ:ヴィータ教導官 キャロ・ル・ルシエ(一人称:わたし) 八神はやて(一人称:私) なのは:高町一尉 スバル:スバル フェイト:フェイト執務官 エリオ:エリオ ヴィータ:ヴィータ リイン:リイン ルキノ:ルキノ シグナム(一人称:私) アギト:アギト ヴィータ(一人称:あたし) バルディッシュ:バルディッシュ シャマル(一人称:私) ザフィーラ(一人称:私) リインフォースⅡ(一人称:私、リイン) はやて:司令 アギト(一人称:あたし) シグナム:シグナム レヴァンティン:レヴァンティン シャリオ・フィニーノ(一人称:私) アルト・クラエッタ トーマ:トーマ スバル:スバル ルキノ・ロウラン トーマ:トーマ ヴェイロン(一人称:俺) トーマ:クソカス、バカガキ、チビカス アイシス:メスガキ アルナージ:アル サイファー:サイファー ステラ:ステラ カレン:カレン、姉貴 アルナージ(一人称:あたし) アイシス:ぺったん胸 ヴェイロン:ヴェイ兄 ドゥビル:ビル兄 フォルティス:フォルティス ステラ:ステラ サイファー(一人称:私) リリィ:破損プラグ シグナム:公僕 ヴェイロン:ヴェイ ドゥビル:ビル ステラ:ステラ ドゥビル(一人称:俺) ヴェイロン:ヴェイ フォルティス(一人称:僕) トーマ:トーマ君 ヴェイロン:ヴェイロン アルナージ:アル サイファー:サイファー ドゥビル:ビル ステラ:ステラ カレン:カレン ステラ・アーバイン(一人称:わたし) トーマ:トーマ君 ヴェイロン:ヴェイお兄ちゃん フォルティス:フォルティス カレン:お姉ちゃん カレン・フッケバイン(一人称:私) はやて:特務のお嬢ちゃん アルナージ:アル サイファー:サイファー ステラ:ステラ
https://w.atwiki.jp/espritlibre/pages/8.html
┃コスチュームOP 名称 職業 オプション 高級猿コスチューム ナイト、Dナイト、バギ、Hバギ、アロ 全ての攻撃力 +10%、ラック +100、クリティカル確率 +5%、経験値追加獲得 +40% 力+50 ハンター 敏捷+50 マジ、BW 精神+50 セグナレ、ケンセラ 敏捷+35 精神+35 サマナー、セグリパ 力+35 精神+35 最高級魔女コスチューム ナイト、Dナイト、バギ、Hバギ 全ての攻撃力 +20%、防御力 +9%、クリティカル確率 +15%、ラック +150、移動速度 +10% ブロック確率 3% ハンター、マジ、セグナレ、セグリパ、BW ダメージ減少率 4% サマナー、ケンセラ 召喚獣とダメージ共有 5% アロケン スペル発動確率増加 5% 魔女コスチューム 共通 すべての攻撃力 +15%、最大HP +5000、ラック +300、クリティカル確率 +5%、経験値追加獲得 +50%、モンスターダメージ耐性増加 +10% 齊天聖人 コスチューム 共通 最大HP +9000、移動速度 +25%、ラック +220、モンスターダメージ耐性増加 +17%、すべての攻撃力 +18%、経験値追加獲得 +60% 齊天大聖 コスチューム 共通 最大HP +8000、移動速度 +18%、ダメージ減少率 +8%、状態異常抵抗確率 +5%、PK / PVPダメージ耐性増加 +5%、すべての攻撃力 +18% 猿コスチューム 共通 すべての攻撃力 +12%、ラック+120、モンスターダメージ耐性増加 +5%、PK / PVPダメージ耐性増加 +5%、移動速度 +12% 黒騎士 コスチューム 共通 すべての攻撃力+15%、最大HP+15%、ラック+100、クリティカル確率+15%、ダメージ減少率+5%、移動速度+10% 最高級忍者 コスチューム ナイト、Dナイト、バギ、Hバギ 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +100、ブロック確率 +3%、経験値追加獲得 +70% ハンター 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、敏捷 +100、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% マジ 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、精神 +100、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% サマナー 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +70、精神 +70、召喚獣とダメージ共有 10%、経験値追加獲得 +70% セグナレ 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、敏捷 +70、精神 +70%、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% アロケン 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +100、スペル発動確率 +5%、経験値追加獲得 +70% ケンセラ 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、敏捷 +70、精神 +70、召喚獣とダメージ共有 10%、経験値追加獲得 +70% セグリパ 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +70、精神 +70、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% BW 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、精神 +100、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% 最高級海賊 コスチューム ナイト すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +100、ブロック確率 +3%、経験値追加獲得 +70% ハンター すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、敏捷 +100、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% マジ すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、精神 +100、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% サマナー すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +70、精神 +70、召喚獣とダメージ共有 10%、経験値追加獲得 +70% セグナレ すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、敏捷 +70、精神 +70、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% バギ すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +100、ブロック確率 +3%、経験値追加獲得 +70% アロケン すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +100、スペル発動確率 +5%、経験値追加獲得 +70% ケンセラ すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、敏捷 +70、精神 +70、召喚獣とダメージ共有 10%、経験値追加獲得 +70% セグリパ すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +70、精神 +70、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% BW すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、精神 +100、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% Hバギ すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +100、ブロック確率 +3%、経験値追加獲得 +70% 暗黒中世コスチューム ナイト すべての攻撃力 +20%、最大近接攻撃力 +350、ラック +150、クリティカル確率 +15%、 最大HP +1500 ハンター すべての攻撃力 +20%、最大遠距離攻撃力 +350、ラック +150、クリティカル確率 +15%、 近距離ダメージ抵抗 +3% マジ すべての攻撃力 +20%、最大魔法攻撃力 +350、ラック +150、クリティカル確率 +15%、 近距離ダメージ抵抗 +3% サマナー すべての攻撃力 +20%、最大近接攻撃力/最大魔法攻撃力 +350、ラック +150、 クリティカル確率 +15%、召喚獣とダメージ共有 4% セグナレ すべての攻撃力 +20%、最大遠距離攻撃力/最大魔法攻撃力 +350、ラック +150、 クリティカル確率 +15%、近距離ダメージ抵抗 +3% バギ すべての攻撃力 +20%、最大近接攻撃力 +350、ラック +150、クリティカル確率 +15%、 最大HP +1500 アロケン すべての攻撃力 +20%、最大近接攻撃力 +350、ラック +150、クリティカル確率 +15%、 スペル発動確率 +4% ケンセラ すべての攻撃力 +20%、最大近接攻撃力/最大魔法攻撃力 +350、ラック +150、 クリティカル確率 +15%、召喚獣とダメージ共有 4% セグリパ すべての攻撃力 +20%、最大近接攻撃力/最大魔法攻撃力 +350、ラック +150、 クリティカル確率 +15%、近距離ダメージ抵抗 +3% BW すべての攻撃力 +20%、最大魔法攻撃力 +350、ラック +150、クリティカル確率 +15%、 近距離ダメージ抵抗 +3% Hバギ すべての攻撃力 +20%、最大近接攻撃力 +350、ラック +150、クリティカル確率 +15%、 最大HP +1500 プレミアムコスチューム 共通 HP+1500、防御+4% 一般DK 共通 DK攻撃力 +10%、最大HP +3000、破壊 +350、PK/PVPダメージ耐性 +4%、 DKすべての属性抵抗力 +5%、PKシールド回復力 +7500 高級DK 共通 DK攻撃力 +15%、最大HP +5000、破壊 +690、PK/PVPダメージ耐性 +5%、 DKすべての属性抵抗力 +10%、PKシールド回復力 +10000 海賊S 共通 近接攻撃力、魔法攻撃力、遠距離攻撃力+20% 、状態以上抵抗確率+5%、 クリティカル抵抗+7%、ラック+150 海賊A 共通 近接攻撃力、魔法攻撃力、遠距離攻撃力+10% モンスターダメージ耐性増加+5%、防御力+5%、ラック+100 海賊B 共通 近接攻撃力、遠距離攻撃力、魔法攻撃力+5% モンスターダメージ耐性増加+2%、防御力+3%、ラック+50 浴衣S 共通 HP+5000、クリティカル+420、クリティカル確立+8%、クリティカルダメージ+8% [A]礼服S 共通 力+50、敏捷+50、精神+50、体力+50、最大HP+7%、最大MP+7% [A]スイムウェアS 共通 力+50、敏捷+50、精神+50、体力+50、最大HP+7%、最大MP+7% [A]ホラー ナイト 近接攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 ハンター 遠距離攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 マジ 魔法攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 サマナ(剣) 近接攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 サマナ(杖) 毒攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 セグ 呪い攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 バギ 近接攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 アロ 近接攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 ケンセラ(剣) 近接攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 ケンセラ(杖) 毒攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 リパ 呪い攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 BW 魔法攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 Hバギ 近接攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 [A]ホーリープレート 共通 最大HP+10%、防御力+7%、治癒力増加+10%、クリティカル+250、ラック+120、命中+120 [A]ダークプレート 共通 最大MP+10%、近接攻撃力+7%、魔法攻撃力+7%、クリティカル+250、ラック+120、命中+120 [A]グロウズプレート 共通 すべての攻撃力+5%、最大HP+3000、力/敏捷/精神 +20、経験値追加獲得+5% ┃未実装コスチューム? (韓国公式パッチより) 名称 オプション 追加 14/11/11 (イベント景品) 黒子コスチューム すべての攻撃力+15% 最大HP +15% 活力+100 クリティカル確率+15% ダメージ減少率 5% 移動速度+10% ※モンスター討伐時一定確立で5分、 すべての攻撃力5%、 クリティカル確率5%、 クリティカル ダメージ5% 14/10/27 (期間限定 課金) 忍者コスチューム ニュータイプ忍者コスチュームは帰属/永久アイテムで取り引きが不可です。 ※ニュータイプ忍者コスチュームはオプションがないが今後オプションを直接付与できます。 ※付与可能なオプションおよび方法は今後公開されます。 2014/4/22 (課金) 聖騎士 コスチューム 聖騎士 力・敏捷・精神・体力 +15 攻撃力+7%、防御力+5% 神 聖 な 聖 騎 士 ナイト 攻撃力+20% 防御力+9% クリティカル確立+15% 活力+1850 移動速度+10% ブロック確立+3% マジ ダメージ減少率+4% ハンタ ダメージ減少率+4% サマ 召還獣ダメージ共有+5% セグ ダメージ減少率+4% バギ ブロック確立+3% アロ スペル発動確立+5% ケンセラ 召還獣ダメージ共有+5% リパ ダメージ減少率+4% ウィザ ダメージ減少率+4% ハフバギ ブロック確立+3% ※聖騎士コスチューム永久アイテムと神聖な気勢10個をアルデカシナンNPCに返却すれば、‘神聖な聖騎士コスチュームにアップグレードが可能
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2445.html
最近、考え込むことが多くなった。 ――あたしは、何を目指しているのだろう? こんな風に考える切欠は何時だったか。 訓練校に入った時? そこを卒業した時? それとも、Bランク魔導師の試験に合格した時? 違う。 <機動六課>に入隊した時だ。 そこから、自分の人生は大きく動き始めた。 一歩一歩の小さな歩みが、途端に大きく足を跳ね上げ、追い風に乗って走り始めた。 遠く仰いでいた『何が』見え始める。 だからだろうか? 自分の行き着く先を、とりとめもなく考える時間が増えた。 決まっている。決まっている筈だ。 漠然とした目的で、凡人の自分がここまで辿り着けるはずがない。 苦しみに膝を着き、悔しさで地を這った時、自分を支えたのは不変の誓いだった。 受け継いだこの<弾丸>で、兄の目指した正義を貫き通す。 その為の手段は明白で、目指すべき頂もハッキリと見えていた。 しかし、実際にその道を走って気付く――。 自分の行く道には、どうしようもなく多くのものが転がっているという事実に。 それは障害であり、足を引っ張るものであり、煩わしいものであり――また同時に、支え、導き、癒してくれるものでもあった。 それらに触れながら、時には抱えながら、少しずつ自分の荷物を増やしながら走っていく。 重くなどない。むしろ――。 「――ィアナさん。あの、ティアナさん?」 「え?」 我に返ったティアナの視界にキャロの心配そうな顔が映った。 物思いに耽っていたらしい自分の信じられない気の抜きようを戒めると、それを表には出さず周囲を見回す。 木々が並ぶ見慣れた訓練場の風景が目に入り、ティアナは自分の状態を冷静に理解した。 「ごめん、ボーっとしてたわ」 「ティアがボーっとするなんて、相当のことじゃない? やっぱり疲れが溜まってるんだよ」 自分と同じ分量の自主練習をこなしながらも、こちらはますますエンジンが掛かっているような高揚した様子の傍らでスバルがパートナーを案ずる。 「違うわよ、フォーメーションを考えてたの。アンタが物を考えないからあたしが脳みそ酷使することになるんでしょうが」 「ひどっ! まるでアホの子みたいに言わないでよ!」 「違うの?」 「何、その心底不思議そうな顔!」 「もしもし、入ってますか? ナカジマさん、お留守ですか?」 「痛っ! 痛い、やめてたたかないでノックしないでっ!」 叩くとコンコンいい音を立てる頭の中身を割りと本気で心配しながら、ティアナはスバルの追及をかわせたことに安堵していた。 無理をしているのは自覚済みだ。 他人の心配事となると勘の良いこの相棒には、あまり踏み込んで欲しくなかった。 彼女の好意が煩わしいなどとは思わない。 ただ、他人事の薄い言葉だと思えるほど、自分はスバルに心を許していないわけではないのだ。 その時ふと、ティアナはつい先ほどまで考えていたことを思い出した。 道を進む上で巡り合った、他人との数奇な出会い。 スバルと、そしてエリオやキャロ。高町教導官を始めとした、多くの先達たち……。 「ティ、ティアナさん……よろしかったら、その……これ」 弱弱しく差し出されたドリンクのボトルを一瞥し、ティアナはそれを持つ少女の小さな手を辿った。 ロクに相手の顔も見れないほどの緊張で真っ赤に染まり、それでも拒絶される恐れと純粋な好意でドリンクを渡そうとする健気な姿がある。 ティアナは時折見る、キャロのそういった人と関わろうとするささやかな勇気を微笑ましく思い、笑顔でボトルを受け取った。 「ありがとう。喉渇いてたのよ――ゲブォハッ!?」 スバルに言わせれば『デレ』であるらしい貴重な笑顔でボトルを煽り、次の瞬間ティアナは奇怪な声と共に口と鼻の穴からドリンクを逆流させた。 史上最悪の毒を含んでもこうはならないという凄惨な姿でのた打ち回り、スバルとエリオは硬直し、それを成した張本人のキャロは自らのへの恐怖で小さな悲鳴を上げた。 「ティアァァァーーー!? どうしたの、何が起こったの!?」 「……何コレッ!?」 鼻から奇妙な液体を垂れ流したティアナは鬼気迫る形相でキャロに食って掛かった。 その異様な迫力に哀れな少女は危ういところで失禁するところであった。 「ス、スポーツドリンクですぅ……オリジナルブレンドの」 「セメントでもブレンドしたっての!?」 「よく分からないですぅぅっ! シャーリーさんに教わったまま混ぜて……っ」 あのマッドメガネめ、スケボーのように隊舎内を引き回してやる! 罪の無い無垢な少女から確信犯へと怒りの矛先を転換させたティアナは強く誓った。 「あの……ごめんなさい。ティアナさん、疲れてるみたいだから、栄養が付く物をってわたしが頼んで……」 必死に言い繕うキャロの表情には涙と、自分の為したことへの深い後悔が滲み出ていた。 頭を抱えたくなるような理不尽な気持ちがティアナの心に湧き上がる。 何処か他人から一歩退いていようとする少女の歩み寄りを、自分は拒絶してしまったのだ。そこにやむを得ぬ事情があるにせよ。 ああ、畜生。やってらんない。そんな悪態を吐きながら、体は勝手に動く。 キャロの抱えるボトルを奪い取ると、その凶悪な中身を一気に喉の奥へ流し込んだ。 「ティア、死ぬ気!?」 「無茶ですよ!」 「ああっ、ダメです……っ!」 周囲が口々に止める中、ティアナは不屈の精神でその粘液を飲み干した。 「……キャロ」 「は、はい!」 「クソ不味いわ」 呻くように吐き捨てると、ティアナは空になったボトルをキャロに渡した。 「次は、普通のドリンクを頼むわね」 「……はいっ!」 そっぽを向いて投げ捨てられたティアナの言葉の意味を理解し、キャロは満面の笑顔で頷いた。 様子を見守っていたスバルとエリオの顔にも自然を笑みが湧いてくる。 それから、気分の悪さとは裏腹に体調は異常なほど回復したのは決してあの呪いのドリンクの効能などではなく偶然だと思いたい。 気が付けば暖かなものに囲まれていた。 同じ志を胸に宿す仲間達。 目指すべき指針となって、行く先の空を飛ぶ英雄。 この背を預ける唯一の相棒。 そして――。 『―――がんばれよ。お前ならやれるさ』 この出会いの数々はある種の幸運であると、認められる。 多くの大切なものに自分は恵まれているのだ。 ――だが、そうした優しい日々の中でも決して忘れられない過去があった。 兄は死んだ。 両脚と左腕を失い、酷く綺麗な死に顔が現実感を与えてはくれなかった。 残された右腕にはデバイスが握り締められていたらしい。最後までトリガーを引き続けて。 決して無くならない現実がある。 兄が命を賭して放った弾丸は届かず、撃たれるべき者が今まだこの世界でのうのうと生き続けているという現実が。 過去と未来。 どちらを優先させるべきか。 答えなど出ない。きっと誰にも。 ただ考えるのだ。 この満ち足りていく日々の先で、夢を叶え、頼れる仲間と共に自らの信じる正義を成し、いずれ兄の仇を正当な裁きの下で打ち倒す――そんな理想の傍らで、否定に首を振る自分がいる。 それも一つの選択なのかもしれない。 でも、ダメだ。 どうしても出来ない。 穏やかで優しい日々の中、まるでぬるま湯に浸かる自分を戒めるように脳裏を過ぎる兄の死を、ゆるやかに忘却していく事など。 それは愚かしいのかもしれない。過去に捕らわれているのかもしれない。 だけど。 ただ一つ。報われるものが欲しい。 『無能』『役立たず』と罵られ、その死を悼まれることも無く死んでいった兄の魂に捧げられる何かが欲しい。 その為ならば、仲間よりも、幸福よりも――これから続く優しい日々よりも。 ただ一発の<弾丸>が欲しい。 全てを貫く魔の弾丸が欲しい。 どちらの道が正しいかなど分からない。 ただ、どちらが幸福かは明白だ。 それでも尚、考え続ける。 そして今、一つの答えが出ようとしている――。 魔法少女リリカルなのはStylish 第十六話『Shooting Star』 実出動僅か2回の新人魔導師と前線に立ち続け多くの新人を導いてきたベテラン魔導師。 Bランクにされて間もない飛行魔法未修得の陸戦魔導師とリミッター付きとはいえ実質S+ランクの空戦魔導師。 その二人が戦えばどうなるか? 予測など容易い。決着は火を見るより明らかであった。 少なくとも、その戦いを見守るほぼ全ての者達が予見していた。 ――しかし。では、この緊迫感は一体何だ? 誰もが固唾を呑んでいた。 空気が張り詰め、ピリピリと乾燥している。 戦闘の意志を明確にしたなのはとティアナの対峙に、全ての物事が息を潜めている。 緊張の糸は緩まず、切れもせず、ただギリギリのところでピンと張り詰めていた。 それは、この二人の拮抗を意味するのではないか。 『結果は見えている。しかし――』 誰もが予想し、しかし心の片隅でそれを疑う気持ちを抑えることが出来なかった。 「――いくよ、ティアナ!」 静かな対峙をなのはの宣告が崩した。 油断を戒めるような緊張感がなのはに全力で戦うことを忠告していた。そして、だからこそ確実な手段を取る。 先制攻撃として<ディバイン・シューター>の魔法を瞬時に展開した。まずは様子見だ。 <ウィングロード>の限定的な足場で、飛行能力を持たないティアナには誘導性を持ったこの攻撃さえも脅威となる。 油断ではない。が、上手くすれば一瞬でカタが付く。なのははそう思っていた。 なのはの周囲に桃色の光弾が幾つも形成される。 そして――次の瞬間<銃声>と共にそれら全てが弾け飛んだ。 「な……っ?」 なのはの驚愕は、状況を見る者全ての心を代弁していた。 形成とほぼ同時に他の魔力との衝突で相殺されたスフィア。桃色の残滓が空しく周囲を散っている。 なのはは、それを成したティアナの姿を凝視した。 突きつけられた二つの銃口から薄い白煙を上げ、不敵な笑みを浮かべる彼女の姿を。 「撃ち落とされたの!?」 《Positive.》 レイジングハートが無機質に肯定した。 ほぼ全ての射撃魔法に言えることだが、発射には『魔力を集束しスフィアを形成して放つ』という過程が存在する。誘導という術式を付加するならば尚更だ。 ティアナはその一瞬のタイムラグを突いたのだった。どんなに強大な力でも発生の瞬間は小さな点である。 「訓練で嫌と言うほど味わいましたから。高町教導官の誘導弾は、一度放たれれば飛べない私にとって脅威です」 しかし、その一瞬を見極め、正確に行動出来るかと問われればやはり疑わざるを得ない。 「だから、撃たせない」 目の前の現象が、ティアナの言葉のまま簡単な話でないことはなのはにも理解出来た。 可能にした要素は幾つか在る。 ティアナの魔力弾は魔導師の中に在って異質だ。どんな射撃魔法よりも弾が速い。 誘導性を一切捨て、過剰圧縮による反発作用を加えた実弾並の弾速を誇るティアナの魔力弾だからこそ、相手の行動に反応してから撃ってもなお先手を取れたのだ。 だが、数も出現位置もランダムな標的にそれを全て命中させたのはティアナ自身の磨き上げた腕前に他ならない。 それは魔導師ならば――どんな射撃魔法にも命中率に多少なりとも弾道操作による補正を入れている、なのはですら及ばない射撃能力だった。 その力に戦慄し、同時になのははそんなティアナを想う。 何故、その自分の力を誇ってくれないのか。 「溜めのある魔法は命取りだと忠告しておきます!」 駄目押しのように告げ、ティアナは魔力弾を発射した。 実弾に匹敵する弾速を人間の動体視力で捉えられるはずもない。魔力反応、銃口の向きによる弾道予測、反射神経、全てを使ってなのははそれを回避した。 防御ではなく回避。咄嗟の判断だったが意味はあった。あのまま場に留まって射撃の応酬をしていれば、近くにいたスバルを巻き込んでいただろう。 今のティアナは他人を配慮する余裕や甘さなど持ち合わせていない。あの<悪魔>を撃った時のように。 なのはは<ウィングロード>の足場から飛び出し、そのまま飛行してティアナの死角に回り込みながら狙い撃つ。 チャージ時間を短縮した<ショートバスター> さすがにそれを止める猶予は無かった。 しかし、ある程度威力を犠牲にしてなお脅威的なその砲撃を、ティアナは半身を反らした紙一重の動きで避けた。 髪を掠めて肌のすぐ傍を圧倒的な魔力の奔流が走り抜けていく。その瞬間に瞬き一つせず、表情はただ不敵に笑うだけ。 「――狙いが甘いですよ、教導官」 カウンターのようにティアナの魔力弾が放たれた。 威力も魔力量も遥かに劣る、しかしただひたすら硬く速い弾丸が、飛行するなのはの機動予測地点へ正確に飛来した。 成す術も無く肩に命中し、走り抜ける痛みと衝撃になのはは小さく呻いた。 なのはのバリアジャケットは長時間の展開を目的とした軽量の<アグレッサーモード>を取っているが、それでも魔力に底上げされた基本防御力は一般魔導師のそれを上回る。 その防御が砕かれていた。 直撃を受けた肩の部分が破れている。一見すると布のようだが、付加された特性を考えればそれは鎧を撃ち砕いたに等しい。 訓練の時とは違う。手加減も配慮も無い。 明確な意思と決意の下の戦いで、鉄壁の防御を誇る高町なのはが受けた久方ぶりのダメージであった。 「命中率を誘導性に頼りすぎです」 「……やるね」 ある種の快挙ですらあるその結果を誇りもせず、ティアナは油断無く銃口を突きつけたまま皮肉げに言った。 それが挑発であることは分かっている。しかし、なのはは悔しげに笑わずにはいられない。 油断しないと言いながら、心の何処かでタカを括っていたのだ。自分は有利だ、と。 そんな自分を嘲笑う。 そして認めた。 もはや目の前の少女は、完全に<敵>である、と。 自らも工夫し、力と技を駆使して打ち倒さなければならない相手なのだ、と。 そうでなければ、何を言ったって自分の言葉は彼女の決意を1ミリも動かせやしない。 「教導官の強さは認めますが、アナタの認識だけで何もかも測れると思わないことです。だからアナタのこれまでの訓練は……」 「ティアナ、今回はよく喋るね」 更に挑発を続けるティアナに対して、なのははむしろ嬉しそうでもあった。 「普段も、それくらい気安く話しかけてくれてよかったのに」 「……黙れ」 感情が露わになる前に冷徹な仮面を被り直し、ティアナは無慈悲な射撃を開始した。 《Accel Fin》 急加速。 初弾を回避した瞬間、移動先を読んだ第二射が正確無比に飛来する。 なのはは咄嗟にラウンドシールドを展開してこれを防ぐ。 更に数発の弾丸が障壁を叩いたが、さすがにその防御を貫くことは出来なかった。 やはり高町なのはの防御力は鉄壁。本気で守りに回れば、ティアナの攻撃力では突破出来ない。 その事実にティアナは舌打ちし、同時にすぐさま思考を切り替えて両腕に魔力を集束し始めた。 自分の射撃は一度なのはの障壁を抜いている。要は状況とタイミングだ。必ず一撃を通せる瞬間がある。それを捉える。 戦意を衰えず、むしろ集中力を高めるティアナの前でなのはがシールドを解除した。 もちろん撃たない。これは隙ではない。必ず何らかの意図がある。 その予想に従うように、なのはがレイジングハートをティアナに突き付けた。 「今度はこっちからいくよ」 当たるか。 直線射撃なら回避、誘導弾なら迎撃。いずれの行動にも瞬時に移れるようティアナは身構える。 そんな万全の態勢を前にして、今度はなのはが不敵に笑う番だった。 「――フェイントだけどね!」 《Accel Shooter》 目を見開くティアナの視界で三条の閃光が空を走った。 「何っ!?」 タイムラグ無しに<ディバイン・シューター>より更にチャージ時間を必要とする<アクセル・シューター>を放ったという事実。 集中して見ていたが、狙うべき魔力スフィアの形成は確認されなかった。 驚くティアナを尻目に、なのはの『背後』から鳳仙花の種のように飛び散った三つの魔力弾が空中で軌道を変更し、標的目掛けて一斉に襲い掛かった。 手遅れだと思いながらもティアナは答えを知る。 なのははシールドで防御した際、障壁の輝きで視認を妨害しながら、更に自らの背後で魔力を練り上げていたのだ。攻撃の前動作を隠し、同時に射線を体で遮れるように。 今更もう遅い。恐るべき誘導性を持つ魔法は放たれてしまった。 回避が不可能ならば、スバルのような機動性も持たない自分が逃げ切ることもやはり不可能。 クロスミラージュが自らの判断でシールドを展開し、そうと意図せず両腕に集束していた魔力を防御力の後押しとする。 「うわぁっ!」 シールドが魔力弾を受け止める。 しかし、カートリッジの魔力増加無しにしてもその威力は凄まじかった。 一発目がシールドごとティアナの体を揺るがし、二発目が盾に亀裂を入れ、三発目がついに砕く。 互いに相殺し合う形であったが、反動でティアナの体は<ウィングロード>から弾き出された。 咄嗟にアンカーを撃ち出し、頭上に走る別の足場まで移動する。 その間、致命的な隙でありながら、なのはは追撃を行わなかった。 それは、ティアナが最初の攻撃でスフィアを撃ち抜いた後、一瞬無防備になったなのはをそのまま撃たなかった理由と全く同じである。 「――視野を広く持つように、って教えたよね?」 睨み付けるティアナの感情的な視線を戒めるように、なのはは言った。 「一歩退いて、相手を観察することも重要だよ。魔力の動きにも気をつけて。ティアナは五感を鍛えてる分、その辺の感性が鈍いよ」 「う、うるさいっ!」 仮面が剥がれ落ち、苛立ちとそれに隠れた羞恥がティアナの顔に浮き彫りになる。 意外と激情家なんだな。やっぱりヴィータちゃんと気が合いそう。 クールな少女の新しい発見に、場違いな感心と納得を抱きながら、それを心の片隅へ追いやって、なのはは更なる戦闘の為に行動を開始した。 「お話――聞かせてっ!」 「驚いたな……。ティアナ、なのはとしっかり渡り合ってるよ」 ビルの屋上でキャロ達と共に上空の様子を見上げていたフェイトは思わず呟いていた。 思う事は多い。 二人の戦闘までの経緯はしっかり聞き及んでいた。ティアナの言い分も分かるが、なのはの普段の苦労を知る側としてはその意思を汲んで欲しいというのが本音だ。 だが今は、そんなどちらが正しいとか味方するとかいう話は置き、ただ純粋に感心せざる得ない。 ティアナの意志は、なのはの意志に決して劣らない。 彼女にはそれほどまでに強い決意があるのだった。 それ故にぶつかり合わねばならないという現実が、どうしようもなくやるせないものではあるのだが。 「……フェイトさんは、どっちが勝つと思いますか?」 フェイトの漏らした呟きを聞いたエリオが躊躇いがちに尋ねた。 「それは、どっちに勝って欲しいって聞きたいんじゃないかな?」 「……そうかも、しれません」 「エリオはどう?」 「ボクは……ティアナさんを、応援したいです」 意外にも、エリオはフェイトの眼を真っ直ぐに見返して明確な答えを告げた。 保護者であり恩師であるフェイトに対して、何処か一歩退くような遠慮を見せるエリオには珍しい我を貫く姿勢だった。 「勝てば、ティアナさんはきっと孤独になります。スバルさんに言ったことは本心じゃないって信じてますけど、でも望んだ結果だとは思います。 でも……それでもティアナさんが自分の目標の為にそれを本当に望むなら、ボクはそれを叶えて欲しい。 その上で、例えティアナさんが独りを望んでも、ボクが勝手について行くだけですから。あの人が、未熟なボク達を信じて、導いてくれたように」 「そっか……」 そのことにショックなど受けない。むしろ嬉しく思う。 エリオにも、そうして貫くべき意志と守るべき大切なものが見つかったのだ。 自分にとってなのはと過ごした10年がそうであるように、エリオにとってティアナや他の仲間と乗り越えた苦楽こそ、月日の長さを超えた大切な経験なのだろう。 人との付き合い方はそれぞれ違う。 確かに、自分やなのははティアナのことをエリオ達に比べて知らない。 だからこそ、二つの意志は相反するのだ。 「わたしは……」 ただ黙って、悲痛な表情で戦闘を見上げていたキャロが、震える声で呟いた。 「どっちにも勝って欲しくない。ううん、勝ち負けなんてどうでもいい。 なのはさんとティアナさんが無事なら……戦うのをすぐに止めてくれたら、それでいい……」 「キャロ……」 「だって! おかしいですよ、こんなの……だって二人ともいい人です。優しい人です。敵じゃないんですっ!」 キャロは涙を流し、誰にもぶつけられない訴えを嗚咽と共に吐き出していた。 親しい人達が戦い合うこと――キャロにとって、それ自体が既に<痛み>であった。 「どうしてですか、フェイトさん? 戦うって、悪い人を倒す為や、大切なものを守る為にすることでしょ? ティアナさんは悪い人じゃないし、なのはさんは何かを壊そうとしてるわけじゃないっ。じゃあ、戦わなくていいじゃないですか!」 「違うよ、キャロ。これは……」 「嫌だよ、エリオ君……こんなのやだ……」 縋り付くキャロを、エリオはただ弱弱しく支えることしか出来なかった。 フェイトもただ痛ましげに見つめ、告げる言葉が無い。 幼いながらも呪われた人生を経験してきた。その上で差し出された手に救われ、再び人を信じ、仲間の暖かさに癒された。その無垢な少女にとって、これがこの戦いへの答えだった。 キャロの言葉はあまりに純粋で、単純だ。 だが、真理でもある。 フェイトとエリオは目が覚める思いだった。 ああ、そうだ。どんな事情があれ――親しい人達が傷つけ合うのは嫌だ。胸が痛む。 なのはが、そしてティアナもきっとそうであると。 二人は改めてこの戦いの厳しさと悲しさを知った。 「そうだね、キャロ。痛いことだよ、戦うって……」 フェイトはキャロの頬を伝う涙を優しく拭った。かつて、初めて彼女と会った時そうしたように。 だが今流れるこれは悲しみの涙だ。 「嬉しい時にも流れるけど、やっぱり苦しい時や悲しい時に涙は出るんだ。私もそれを見たくない。でも……」 キャロの顔をそっと自分に向け、視線を合わせて囁くように告げる。 「それが<人間>だから――。 どうしても分かり合えなくて、気持ちはすれ違って……それでも感情をぶつけ合いながら歩み寄っていくのが、人間だけが出来る戦い方だから」 「人間だけが、出来る……」 「涙を流せるってことは、心があるってことだよ。 これは、その心の戦い。どっちが悪いとか良いとかを決めるんじゃない。多分正しい答えなんて無い、それ以外を決める戦いなんだ」 後はもう何も言わず、フェイトはただ黙って空を見上げた。 止めること無く、横槍を入れることも無く、ただ見届けなければならない。この戦いの決着を。 なのはとティアナ。 かつて、自分となのはが戦った時のように、この決着でこれまでの何かが変わる。 それがより良い未来への分岐なのか、最悪の道への一歩なのか。それは分からない。 10年前、自分が戦った時。向けられたなのはの想いを否定した。完全な拒絶と敵意を持って戦い合った。 あの日のことは、多分一生引き摺る負い目だ。それは似たような境遇で戦ったヴィータも同じだろう。 だが、あの戦いは必要だった。 あの時に、自分は岐路を得て、選び、そして今此処にこうして立っている。 だから後悔は無い。あの時の決着と出た答えに。それだけはハッキリと言える。 「なのは……」 フェイトは心苦しさと同時に、不謹慎ながら喜びも感じずにはいれらなかった。 今のなのはは、あの頃のなのはだ。そのものだ。 管理局としての正義ではなく、次元世界を統べる秩序でもなく――ただ一人の人間としての想いを信じて戦っている。 迷い、悩み、それでも自分なりに考えて、傷付きながらも信じ続けて前進する。まるでヒーロー。 子供の頃から、その眩しい姿にずっと憧れていた。 組織は多くの人々を助けられるかもしれない。 でも、たった一人の為に全身全霊を賭けて救おうとする君が好き。 「つらい戦いだね。でも……頑張って」 やっぱり君には――自分の信じるままに飛ぶ、自由な空が良く似合う。 「クソ……ッ!」 放った魔力弾が再び障壁に弾かれるのを見て、ティアナは悪態を吐いた。 これが本来の実力の差なのか。 あっという間に戦況は一方へ傾いた。 なのはは強力なシールドを前方に展開し、先ほどと同じ方法で背後から誘導弾を連装ミサイルのように撃ちまくっている。 ただそれだけ。魔法の運用一つで、戦闘は一方的な展開となりつつあった。 ティアナの魔力弾はシールドを貫けず、弾速を驚異的な誘導性で補ったなのはの魔力弾は目標を執拗に追い詰める。 硬い盾と高い火力があれば、つまりはそれだけで戦闘は決する。 理不尽を嘆かずにはいられない理論ではあったが、ある種の真理でもあった。だから高町なのはは強いのだ。 それに、まさにこれこそがティアナの求める純粋なパワーでもある。 それを手に入れる為に、負けるわけにはいかない。 「クロスミラージュ、少し無理をさせるわよ」 《No problem.Let s Rock,Baby?(お気になさらず。派手にいきましょう)》 無機質な電子音声のクセに随分と小気味のよい言葉が返ってくる。 思いの他頼りがいのある返答に、思わずティアナは苦笑した。 「OK! 火星までぶっ飛ばしましょ――カートリッジ!!」 《Load cartridge.》 消耗した魔力を一時的にカートリッジで補う。 再び放たれた数発の魔力弾が見えた。 自動追尾の誘導性は単純な回避運動では振り切り辛い。無理な軌道変更を何度も繰り返してようやく成功させたと思えば、次が来る。 何度かの攻防でティアナはそれを理解していた。 効率はともかく、反撃に転じれるだけの効果的な方法が必要だ。 魔力を消耗し、弱点が露見する危険性もあるが、これしかない。 ティアナは一つの魔法を選択した。 「フェイク・シルエット――<デコイ>!」 ギリギリまで魔力弾を引き付け、回避に移る瞬間に幻術魔法を発動させる。 ついさっきまっで居た場所に、残像のように残された幻影のティアナへ向かって誘導弾が殺到した。 視認と自動追尾さえ誤らせる幻術を使った、戦闘機のような文字通りの囮(デコイ)だった。 一瞬の回避には効果的である。しかし、結局はその程度の効果だ。 本来の<フェイク・シルエット>は幻影を動かしたり、複数行使することで戦術的な効果すらも見込める魔法である。 ティアナにとって、この魔法は未だ習得出来ぬ不完全な魔法だった。 今のでそれを、なのはに見抜かれたかもしれない。 リスクは大きかった。だからこそ、見返りは最大限に活かす。 「うぉおおおおおおっ!!」 獣のように駆け、吼えながらティアナは空中のなのはを狙い撃った。 シールドに弾かれるのも構わず、とにかく攻撃の手を休めずに移動しながら、防御のカバーが無い側面へと回り込む。 なのはは冷静に観察し、察知していた。 その動きがフェイクであることを。 本命は、撃っていない左手に集束し続けている魔力だ。二段重ねの<チャージショット>の貫通力はシールドすらも射抜く可能性がある。 固定砲台と化していたなのはは、ようやく移動を開始した。 しかし、ティアナの命中精度と魔力弾の弾速は全速飛行であっても逃れ切れるものではない。 「捉えた!」 確信と共に、ティアナは左手に宿した魔力の暴走を解き放った。 雷鳴のような雄叫びを上げて、凶悪な銃火が炸裂する。スパークを撒き散らしながら、弾丸が展開された障壁に殺到した。 「<バリアバースト>!」 狙い済ましていたなのはは、まさにその瞬間仕掛けを発動させた。 バリア表面の魔力を集束して爆発させる。 子供の頃から技術向上し、バリア付近の対象を弾き飛ばす攻性防御魔法へ昇華した代物だったが、なのはは今、あえて対象を無差別に設定して実行した。 魔力弾の激突と同時に発動し、障壁を貫かれる前に、爆発により自分自身を弾き飛ばして距離を取る。 無茶苦茶だが、その思い切りの良さが回避を成功させた。 吹き飛びながらも空中で姿勢を安定させ、近くにあった<ヴィングロード>の足場に着地する。 そして、すぐさま<ショートバスター>による反撃を放った。 砲撃の隙間をティアナは駆け抜ける。 そう、ティアナは攻撃が失敗しても走り続けている。 なのはは彼女の走る足場の先を目で追い、その<ヴィングロード>が自分の元まで一本の道で繋がっていると知ると、内心で戦慄した。 まさか、計算通りか? 回避し、ここに着地することまで狙ってのことか――! 肯定するように、接近するティアナの両手には銃剣型のダガーモードになったクロスミラージュがあった。 なのはは感嘆せざるを得ない。なるほど、大したものだ。 「でも、終わりだよ。ティアナ!」 なのはは余裕を持ってシールドを展開し、背中に魔力スフィアを形成した。 ティアナには一瞬でも高機動を行う手段が無い。確かに、接近戦には絶好の位置に追い込んだが、タイミングが速すぎたのか、ただの駆け足では全くスピードが足りなかった。 間合いに到達する前に、迎撃は十分間に合う。 シールドは接近戦の持ち込み方次第でどうにかなるかもしれないが、そもそも誘導弾が放たれれば近づくことすら不可能だ。 僅かに間合いに届かぬ位置でなのはは魔法を完成させ、全てを終結させるべく解き放った。 数条の閃光がティアナに殺到する。 「――Slow down babe?」 眼前に迫る決定的な攻撃に対して、ティアナは不敵に笑い返して見せた。 「そいつは、早とちりってヤツよ!」 右手を突き出す。 カートリッジ、ロード。薬室に弾丸を込めるが如く。 《Gun Stinger》 銃声代わりの厳かな電子音声。魔力を集中させた銃剣の切っ先を前に突き出し、ティアナ自身の炸薬が点火された。 脚部に圧縮して溜めていた魔力を爆発させた反動で、無謀な突進は凶悪なまでの加速を得る。 次の瞬間、ティアナの体は前方へ弾け飛んだ。 「でぇやぁああああああーーーっ!!」 自らを弾丸と化した突撃。残像を残すほどの加速で<ウィングロード>を滑走し、飛来する魔力弾の隙間を一直線にすり抜けて、先端の刃がついになのはのシールドを捉えた。 激突のインパクトが周囲の空気を震わせ、更に続く力の拮抗が火花を散らす。 矛と盾がせめぎ合い、魔力で構成されながらも金属的な悲鳴を上げ続けた。 「すごいね、ティアナ! いつの間に、こんな魔法覚えたのっ!?」 絶対的な魔力差を埋めるティアナの突進力に顔を歪めながら、それでもなのはは感嘆を抱かずにはいられなかった。 戦いが始まって以来、ティアナはあらゆる予想を覆し続けている。 「魔法じゃありません! それに、あまり誇れる力じゃない……!」 渾身の力で魔力刃を障壁の内側へと押し込みながら、ティアナは自身の限界を悟られぬよう、歯を剥いて笑った。 冷や汗が滲む。この技は、あまり長い間パワーを放出し続けるものじゃない。あくまで一瞬の爆発力を得る為のものだ。 拮抗は長くは続かないだろう。 「これは……<悪魔>の力です!!」 無茶を承知で、空いている左手のクロスミラージュにカートリッジのロードを命じた。 激しい魔力放出を行う中、強引な方法で供給された魔力が痛みを伴って全身を駆け巡る。 マグマが血管を通り抜けるような錯覚を味わいながら、その勢いを全て右腕に注ぎ込んだ。銃口から伸びる魔力の刃が輝きを増す。 凶悪なその光は、ついにシールドを打ち破った。 しかし、それだけだ。 刃が障壁を貫通し、銃口が抜けて銃身の半分も食い込んだところで、ついに力尽きた。 ダガーの刃はなのはの胸元で僅かに届かず止まっている。もはやこれ以上の後押しは無理だ。 その結果にティアナは――笑った。 そして間髪入れずに吼える。 「クロスミラァァァージュッ!!」 《Point Blank》 撃発。 シールドを突破した銃口から、このほぼ零距離でダガーに蓄えていた魔力を利用した<チャージショット>がぶち込まれた。 力を溜めた銃身を槍のように突き刺し、そのまま発砲するまさに狂気の連撃(クレイジーコンボ) 実銃の放つマズルフラッシュに等しい魔力光の炸裂が指向性を持って前方に噴出し、直撃を受けたなのはは声も無く後方へと吹き飛んだ。 バリアジャケットのリボンの部分がバラバラに弾け飛び、確実なダメージを引き摺って、なのははたたらを踏みながら後退を止める。 ティアナ、もはや狩りに集中する獣のように、一片の油断も躊躇も無くただトドメを刺すべく追撃した。 「ぁ……っ、あっ、あ゛あっ、あああああああああああっ!!」 躍動する体から荒い呼吸音と共に漏れるこの恐ろしい声は何なのか。ティアナ自身さえ一瞬気付かなかった。 この一撃がティアナにとっても全身全霊を賭けた勝負であったことは間違いない。 賭けには勝った。だが多くのものを支払った。 一瞬の爆発力に全てをつぎ込み、これを逃せば元々平凡な魔力量しか持たない自分に持久戦は出来ない。 接近戦で全てを決める。 「墜ちてもらいます!!」 「……っ、そうも、いかないよ!」 焦点の合わないなのはの視線が、僅かに戸惑いを見せた後、素早く接近するティアナを捉えた。 ダガーの刃が十字に交差する。ハサミと同じ構えを取ったティアナはなのはの首を刈り取るように腕を突き出した。 交差の一点にレイジングハートを差し出し、なのはは辛うじてそれを受け止める。 《Stop fighting! It is your obligation,Cross Mirage.(戦闘中止しなさい。クロスミラージュ、アナタの責務です)》 デバイス同士が接触した瞬間、レイジングハートとクロスミラージュも意思を交わしていた。 過剰な戦闘継続と、相手の危険な精神状態を考慮したレイジングハートが冷静な命令を下す中、クロスミラージュは変わらぬ電子音声で答える。 《Sorry,My senior.My answer is……Fuck you!(申し訳ありません。私の答えはこうです……糞喰らえ!)》 予想外の、機械的な発声にそぐわない痛烈な返答だった。 レイジングハートに顔があったなら、きっと面食らっていたに違いない。クロスミラージュに手があったのなら、きっと中指を立てていただろうから。 主の意思も、デバイスの意思さえも相反し合った。 二人は激突を続ける。 体格的にも二人の筋力は大差無い。力比べを無駄と切り捨てたティアナは、素早く刃を引いて攻め方を変えた。 拳銃にナイフの生えたような通常の短剣とは使い勝手の違うそれを、驚くほど滑らかに振り回して、小さく、細かく斬りつけて来る。 射撃戦主体とは到底思えぬ巧みさであった。 なのはは冷や汗を浮かべながら、迫り来る剣閃をかろうじてデバイスで捌き続けた。 ティアナの攻撃が技術に裏づけされたものなら、なのはの防御は経験によって支えられている。 決して理の通った動きでは無く、無駄もあり、しかし長年戦い続けてきた経験の中にあるヴィータやシグナムを含む接近戦のエキスパートとの記憶が、迫る刃に対応するのだ。 全身を緊張させ、それでいてくつろいだ動きは、シビアな判断の連続である近接戦闘において理想的な態勢である。 「ビックリだな、ティアナってばどんどん隠し玉出すんだもん!」 「アナタに対して有効だから付け焼刃で振り回してるだけです! でも、今は私の出せる力は全て出して証明すると決めましたから!」 「なるほど! じゃあ、この勝負はわたしの負けかもねっ!」 ガギンッ、と鉄のぶつかり合う音を立て、再びデバイスは噛み合い、一瞬の拮抗が出来上がった。 互いの武器を境に、二人の視線が交差する。 「――ティアナを甘く見てたのは認めるよ。 でも、だったら尚更どうして? こんなに強いのに、ティアナはまだ力が欲しいの?」 「欲しいですね。例え悪魔に魂を売ってでも……<悪魔>を殺す為に!」 「そんな矛盾を持ってる時点で、間違ってるって気付かないの? そんな考えは、ティアナを不幸にする! 孤独にしちゃうんだよ!!」 「独りで戦う、誰も助けてくれなんて言ってない! どうしてアナタは私を止めるんですか!? 私はただの部下です! 別にアナタの10年来の友人でも、家族でもない! お節介程度の気持ちで、私の生き方まで干渉されたら、いい迷惑なんですよ!!」 もはやほとんど罵声のようなティアナの訴えが、なのはの心を揺るがした。 「わたしは……」 心が痛い。だが、こんな痛みなど自分勝手な感傷だ。 そうだ、結局どこまでいってもティアナにとって自分の言動は余計なお節介に他ならない。 それでも――ここで引き下がれない理由は何だ? 目の前の少女を、このまま独りで行かせたくないと思う、自分を突き動かすこの衝動は一体何なのか? 自分の心を表現出来る言葉を必死で探すなのはの頭とは別に、その胸に宿る熱い何かが一気に込み上げて、口から突き出した。 「――ティアナが、好きだから」 「え?」 一瞬、激しい力と意思の衝突が何処かに消え失せた。 呆けたようなティアナの顔と、無意識に出た自分の言葉を認めて、なのはは今や完全に納得した。 そうだ。これだ。 「初めて会った時、相棒を見捨てずに背負って走り続けるティアナの必死な顔を、カッコいいと思ったから」 つらつらと、これまでの迷いが嘘のように想いが言葉となって流れ出た。 「初めての訓練の時、ティアナの撃った弾に宿った魂の強さに、憧れたから」 教導官としての責務。 上司としての責務。 そんなもの、どうだっていい。 「初めてわたしの訓練に意見してくれた時、自分だけの決意を持つ真っ直ぐな眼を見て、もっと知りたいと思ったから」 高町なのはという一人の人間として付き合いたいと、思ったのだ。 「だから、ティアナ――今のアナタの姿がわたしには我慢出来ないの」 それは正しいのか、悪いのか。 そんな考えはもはや空の彼方へ捨て去って。なのはは今、一人の少女として、断固として言い切るのだった。 「そんな、身勝手な……っ」 「ゴメンね。フェイトちゃんやヴィータちゃんの時もそうだったけど、わたしって結構わがままなの」 絶句するティアナの前で、なのははあどけない笑みを浮かべて言った。 「そう言えば、わたしが勝った時の条件って言ってなかったね。 ティアナが勝ったら、うんと強くなるように訓練メニューを変更する。 わたしが勝ったら――今度こそ<なのはさん>って呼んでもらうよ。親しみを込めてね!」 名案だとばかりに、得意げに言うなのはの顔はどう見ても管理局所属の一等空尉の顔ではなく、年相応の人懐っこい少女の笑顔であった。 思わず釣られて浮かべそうになった苦笑を噛み殺して、ティアナは鋭く睨みつける。 「だったら、まずは勝ってからにしてもらいましょうか!」 クロスミラージュの銃身とレイジングハートの持ち手が交差していた一点に向けて、膝を蹴り上げる。 全く想定していなかった方向からの衝撃に、力の拮抗は崩れ、二つのデバイスは弾けるように離れ合った。 両手は宙を舞い、互いに無防備な懐を晒した二人だったが、その一瞬を想定していたティアナだけが一手早く動いた。 下腹に向けてダガーの刃を突き入れる。擬似的にとはいえ人を刺す行為に一瞬の躊躇もない。 バリアジャケット越しに感じる手応え。ティアナは何故か取り返しのつかないことをしてしまったような絶望を感じながら、必勝の瞬間にほくそ笑む。 なのはの腕が、ティアナの腕を掴んだ。 「ジャケットパージ!!」 そう叫んだなのはの言葉の意味が一瞬理解出来ない。 だが、何か答えを出す前にティアナの体は突然の衝撃に後方へ弾き飛ばされた。 上着の部分を構成する魔力を瞬間的に解放することで周囲に衝撃波を放ったこの<ジャケットパージ>は、かつて親友のフェイトが使用していたものだった。 全く予想していなかった反撃に吹き飛ばされるティアナ。揺れる視界で、なのはの射撃体勢を捉える。 必死にクロスミラージュの銃口を突き付けた。 「く……っ!」 「レイジングハート!」 互いのデバイスの先端に灯る魔力の光。交差する視線。狙いは完璧。 放たれる、今。 「シュートォ!!」 「Fire!!」 二色の魔力光がすれ違い、互いの標的を同時に直撃した。 奇しくも、二人とってこの戦いの中で初めてクリーンヒットを相手に与えていた。 「ティア! なのはさん!?」 意識を刈り取るほどの互いの一撃に吹き飛ばされ、<ウィングロード>の足場から落ちていく二人を見て、それまで呆然としているだけだったスバルが我に返る。 深くなど考えない。二人を救う為、魔力を振り絞って更に<ウィングロード>を形成し、伸ばす。 二人の間を中心に一本の青い道が伸び、落下する二人の体を受け止めた。 スバルが安堵のため息を吐く中、二人は倒れ伏したまま動かない。 モニターには倒れたままのなのはとティアナが映っている。 息を呑むようなその場の静寂が、ヴィータの元にまで伝わってきていた。 「……信じられねえ。リミッター付きとはいえ、相手はあのなのはだぞ」 「先に言うなよ。正直、俺も信じられないってのが本音さ」 この時ばかりはダンテも茶化す事無く、神妙な様子でヴィータの言葉に同意していた。 ティアナと最後に会って約三年。 確かに彼女は魔導師として鍛える為の施設に入り、その為の日々を過ごしてきた。 だが、その日々を経たとしてもわずか三年という時間であそこまで人は変わるものなのか? 機動六課に入って以来の付き合いでしかないヴィータにとっては、この変貌はより衝撃的であった。 「努力だとか詰め込みの自主錬だとかでどうにかなるレベルじゃねえぞ。 特に、最後のあの銃剣使った突撃。瞬間高速移動とか肉体強化とか、完全にスバルやエリオみたいな近接戦型魔導師のスキルじゃねーか」 感嘆というよりも畏怖するような響きで呟き、ヴィータは傍らのダンテを睨み上げた。 「……おまけに、どっかで見た技だったな」 初めて共闘した夜、目の前の男が使った技をヴィータは鮮明に覚えていた。 突進と刺突を合わせた一撃。だが、威力や効果はそんな単純なものではなかった。まさに絶大だ。 爆発的な初動は、自分やシグナムでさえ反応することが難しいだろう。あれは一種の技だった。ダンテは自然体で近接戦型魔導師のスキルを備えている。 ティアナの使った技はまさにそれをベースに発展したものと言ってよかった。 「確かに、アイツには何度か見せたことがあるがね。だが、分かるだろ? 見よう見真似で出来るもんじゃない。おまけにアイツには向いてないんだ」 「……そりゃそうだよな。確かにアイツの体つきは格闘向けじゃねえ。けど、だったらますます解せねえだろうが」 言いくるめられ、渋々頷きながらもヴィータは合点のいかない表情を見せた。 「近接技の類は単純な魔法の習得で出来るもんじゃねえ。 機動力強化や筋力強化にしても、基になる部分の適応、その為の肉体改造――どれも一朝一夕で出来るもんじゃねぇんだ。 こりゃ、努力とか才能の問題ですらねーぞ。時間的に無理! ティアナの野郎、まさかヤベー薬でもやってんじゃねえだろな?」 ヴィータはさして考えもせず冗談染みた呟きを漏らしたが、ダンテの表情が僅かに揺れたのを彼女は気付かなかった。 そうしているうちに、モニターで変化が起こる。状況が動き出したのだ。 ヴィータは再びモニターに釘付けになり、戦いの結末に意識を集中させた。 その傍ら。ダンテはモニターから眼を離し、肉眼では見えない遠くの訓練場での戦いを見据える。 「……あのじゃじゃ馬、まさかここまで踏み込んでたとはな」 笑い飛ばしてみようとして失敗し、苦々しいものがダンテの口元に浮かんでいた。 「深入りするなよ、ティア。お前は<人間>なんだ――」 ダンテの言葉は風に溶け、遠いティアナの下へ流れていく。 状況を鮮明に映すモニターの中、ついに二人の戦いは終着へ向かおうとしていた。「くっ……ぁあ……っ」 力を振り絞り、なのはは両手を着いて上半身を持ち上げた。 腹のど真ん中にはティアナの魔力弾の直撃を受けた跡がしっかりと刻み込まれている。まったく、あの態勢で恐ろしい命中率だ。 「久しぶり、かな……こんなにキツイの」 苦笑しながら力の入らない両足を無理矢理立たせる。 ダメージは予想以上だった。 近接状態から逃れる為とはいえ、<ジャケットパージ>は発動と同時に無防備な状態を晒す危険な方法である。 上着部分を失ったことで大幅に防御力の落ちたバリアジャケットは、ティアナの魔力弾の貫通力を緩和し切れなかった。 模擬戦でここまで必死になったのは、本気のシグナムとの一戦以来だ。 「ティアナは……」 なのはは自分の立つ<ウィングロード>が一直線に伸びる先を見つめた。 ティアナは倒れたままだ。意識は戻っているらしく、両脚を震わせ、両腕を動かしながらもがいているが、立ち上がれていない。 ダメージはティアナの方が深刻だった。 砲撃魔導師とも呼ばれるなのはの<ショートバスター>の直撃は、それほどまでに脅威なのだ。 ティアナは言うことを聞かない自分の体に絶望した。 「あたしが――負けるの?」 悔しさと共に、弱音とも取れる言葉が漏れる。 それを見下ろすなのはは、手を差し伸べることもなく、ただ強く言い捨てた。 「どうしたの? それで終わりなの?」 言葉とは裏腹に、嘲りなど欠片も無く、叱責するような厳しさでなのはは告げる。 「立ちなさい! ティアナ、アナタの力はそんなものじゃないはずだよ?」 「うる、さい……っ!」 なのはの言葉にティアナの頭が一瞬で煮えくり返った。 湧き上がってきた怒りを両脚に注ぎ込み、力として立ち上がる。ここで這い続けることは、何よりも許せない屈辱だ。 「アンタなんかに、あたしの何が分かるってのよぉぉ!!」 折れた牙を剥きながら立ち上がった。 ティアナの仮面、もはや跡形も無く崩れ落ち、無残なまでの感情が剥き出しになっている。 怒り、妬み、焦り、悔い、憎しみ――ハッキリとした視線。だが、なのははそこから眼を背けない。 「分からない。でも、わたしはアナタを止めなきゃならない。例え、アナタを傷つけることになっても」 幾度目かの対峙。 しかし、二人は言葉も交わさずに確信し合った。 次が、最後だ。 「……クロスミラージュ」 「……レイジングハート」 下向きに構えられたお互いのデバイスが、お互いの主の意のままにカートリッジをロードした。 供給される一発分の魔力。 そう、次の一発で決める。 奇妙な沈黙が落ちた。 嵐の前の静けさが最も表現として合っている。更に適する状況を表すならば『銃を構える寸前で止まった決闘の瞬間』が最も正しい。 自分が最後まで信じる射撃魔法を武器に、二人は同じ盤上で賭けに出ることを同意していた。 張り詰めた空気が、限界に達する。 ティアナとなのはが、自らのデバイスを相手に向けて振り上げた。 一挙動、なのはが遅い。 疲れ果てて尚、ティアナの抜き撃ちは神速であった。クロスミラージュのガンサイトがなのはの眉間を捉え、ティアナは躊躇無く弾丸を解き放つ。 放たれた魔力弾は、その音速に達する速さで一直線に走り――なのはの手の中に吸い込まれた。 「あ――」 目を見開き、驚愕に支配されたティアナに許された発声はそれだけだった。 待ち構えていたかのように、発射と同時に動いたなのはの空手が飛来する魔力弾を防護フィールドで包み込み、受け止めていた。 虚しく四散する魔力の残滓が舞う中、瞬き一つしないなのはの眼光がティアナを捉えている。 右手のレイジングハートが、ティアナより一瞬遅れてその穂先を標的に向けた。 「シュート」 囁き、念じる。 轟音と共に砲撃が放たれ、なのはの最速砲撃である<ショートバスター>が為す術も無いティアナを貫いた。 魔力の奔流が過ぎた後、左半身のバリアジャケットを消失させ、ティアナが力なく膝を着いた。 もはや、戦いを続けられはしない。 戦闘は終了したのだ。なのはの勝利によって。 「ティアナ……」 僅かにふらつく足取りを叱咤して、なのはは今にも倒れそうなティアナの下へ歩み寄った。 ギリギリの勝負だった。元より、正面から撃ち合いなどして自分に勝機があるなど思っていない。 なのはがティアナの射撃を防げたのは、勘と、運と、何よりもその判断力によるものだった。 散々自身の魔力弾を撃ち込みながらもそれに耐えてきた自分のバリアジャケットをティアナは警戒していたはずだ。 狙うならば、一番ダイレクトにダメージを送り込める頭部を狙って意識を狩りに来る――そう踏んで、ティアナの射撃を誘導した。 後は自身の持ち得る感覚やセンサー全てを頭に集中して待ち構え、そしてなのはは賭けに勝ったのだ。 「わたしの、勝ちだよ」 ティアナの目の前で、なのははそう宣言した。 それを聞き、持ち上げた顔の中。ティアナはまだ笑みを浮かべていた。 「まだ決着なんて……ついてませんよ、教導官。私の意志は折れていない」 「何言ってるの、ティアナはもう戦えない!」 「なら、待ちます。このまま何もしないなら、少しずつ呼吸を整えて、体力を回復させて、動けるようになったらもう一回襲い掛かります」 「そんなこと……っ!」 「そんな面倒な真似をさせたくなかったら、しっかり決着を付けてください。高町教導官」 ティアナの言葉に、なのは息を呑んだ。 ドドメを刺せ――ティアナはそう言っている。 「……降参して、ティアナ」 「言いません。もうダメです、その段階は過ぎました。私はもう決めましたから」 「ティアナ、意地を張らずに……っ!」 「その気遣いは、一体何の為のものなんですか!?」 倒れる寸前とは思えないティアナの一喝が響いた。 彼女の瞳にだけは、いまだに激しい炎が燃え続けている。 「高町教導官! アナタは卑怯だ、そうやっていつも深く踏み込む決断を避ける! 優しさだと思ってるそれは、壁なんです! 私はアナタの笑顔には惑わされない! 私の本気に対して、本気で応えようという気がないなら最初から関わらないで下さい! 今は優しさなんて必要ないんですよ!!」 息も荒く、それでもティアナは血を吐き出すように言葉を投げつけた。 その全てがなのはの心を抉る。 ティアナを含めて、これまで多くの訓練生に教えてきた全てに自信が無くなっていく。 間違っていたとは思えない。でも――確かにわたしは、壁を作っていたのではないか。 「……さっき言ったことは嘘ですか?」 今度は静かに、ティアナが尋ねた。 「本当なら撃って下さい。 私は本気だから止まりません。本気なら止めて下さい。撃って下さい。この戦いの答えを決めて下さい――<なのはさん>」 なのははカッと眼を見開いた。 心が痛み続ける。苦悩が巡り続ける。だが今、迷いだけは抱いてはならない。 何かを堪えるように引き締めた口元。弱弱しくも立ち上がったティアナを睨み据え、レイジングハートを構えた。 「――全力全開でいくよ、ティアナ」 「望むところです」 コッキング音と共に二発のカートリッジがロードされる。 十二分な溜めによって、最大級の魔力が強大なスフィアを形成、凶悪な光を胎動させた。 その圧倒的な存在を前に、射線上のティアナはむしろ穏やかな表情すら浮かべていた。 今、この戦いから始まった全てが終わる。 「<ディバインバスター・エクステンション>!」 なのはの叫び、あまりに悲痛に響き。 「シュゥゥゥーーートォォッ!!」 渾身の力と想いを込めて、なのはは泣き叫ぶように絶叫した。 高密度で圧縮された魔力が一瞬でティアナの体とその意識を飲み込む。 多重構造物を貫通するほどの対物集束砲は光の帯を空の彼方まで届かせ、その凶悪な輝き知ら示した後、ゆっくりと消えていった。 斜線上にあったただ一人の対象物であるティアナは、バリアジャケットを跡形も無くに吹き飛ばされ、訓練着の状態に戻っていた。 意識などあの光に全て焼き尽くされ、そのまま崩れ落ちる。 もはや、立ち上がることはない。目を覚ますのに丸一日は必要だろう。 今度こそ、戦いは終わった。 勝者となったなのはは、倒れたティアナを呆然と見下ろしていたが、やがて踵を返してフラフラと歩き始めた。 「模擬戦はこれまで。二人とも、撃墜されて……」 誰に告げているのか分からない呟きは、そのうちすすり泣くような声に変わっていく。 数歩進んだところで力なく膝を着き、両手で顔を覆った。 様子を見ていたフェイトが飛び出し、いつの間にかバインドの解かれていたスバルが弾けるように駆け出した。 その戦闘を傍観していた者全てが、慌てて行動を始める。このあまりに痛ましい結末に。 もう、見ていられない。 ティアナ対なのは、決着――。 to be continued…> <悪魔狩人の武器博物館> 《剣》リベリオン ダンテの愛用する剣。父から譲り受けたもの。 長身のダンテ自身に匹敵する程の長さと肉厚の刀身を持つ巨大な剣。悪魔の頭蓋骨を連想させる装飾が特徴。材質不明。 頑強で切れ味もあるが、それ自体は単なる剣に過ぎない。 その真の特性は、ダンテの力を唯一完全に発揮出来る媒介であるという点である。 並の得物ならば伝播させるだけで崩れ落ちる真紅の魔力を刀身に宿し、更に強力な攻撃として具現化させることが可能。 ダンテの魔力を帯び続けていたせいか、彼の意思一つで手元に戻ってくる特性も兼ね備えている。 また、武器としてだけではなく、ダンテの<真の力>を発揮する為の鍵としても在るらしいのだが――? 髑髏の装飾は、ダンテの状態に応じて形状が変化するらしい。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/magicswordincubus/pages/43.html
コスチューム一覧 コスチューム名 画像 蝶のドレス 入手条件 初期所持 白蝶のワンピース 入手条件 難易度「Beginner」以上で「街道を外れた森の入り口」をクリアする。 ベリー衣装 入手条件 難易度「Beginner」以上で「オークの拠点」をクリアする。 ルーンナイト 入手条件 難易度「Beginner」以上で「スライムのうろ穴」をクリアする。 騎士団制服 入手条件 難易度「Beginner」以上で「強襲の細道」をクリアする。 パッションサマー 入手条件 難易度「Beginner」以上で「謁見の間」をクリアする。 リナリアのドレス 入手条件 難易度「Beginner」以上で「最後の戦い」をクリアする。 チーパオ 入手条件 難易度「Beginner」以上で「最後の戦い」をクリアする。 ルミエールドレス 入手条件 難易度「Beginner」以上で「記憶の洞」をクリアする。 ブレイブナイト 入手条件 難易度「Normal」以上で「魔剣の記憶」をクリアする。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/945.html
第9話「仮面の男」 「タリャアアァァァァッ!!」 「グゥ……ッ!!」 M78星雲、光の国。 その訓練場において、二人の赤い巨人が対峙していた。 真紅の若獅子ウルトラマンレオと、その師ウルトラセブン。 レオはセブン目掛けて勢いよく拳を繰り出すが、セブンはそれをタイミングよくガード。 そのまま、セブンは拳を打ち上げてレオの腕を大きく払った。 「ジュアァッ!!」 「イリャァァッ!!」 そのまま、がら空きになったレオの胴目掛けてセブンが蹴りを繰り出す。 だが、レオは素早く膝と肘を動かし、その一撃を受け止めた。 攻防一体の技術、蹴り足挟み殺し。 セブンの足に激痛が走る……しかしセブンは、ここで引かなかった。 強引に足を捻って技から脱出し、そのままレオの喉求目掛けラリアットをかましにいったのだ。 しかし、レオは大きく体を反らしてこの一撃を回避。 そのままオーバーヘッドキックの要領で、セブンの肩に一撃を入れた。 「ジュアッ!?」 とっさにセブンは、後ろに振り返りレオに仕掛けようとする。 だが、振り向いた時には……レオの拳が、セブンの目の前にあった。 勝負はついた……レオは拳を下ろす。 セブンは首を横に振り、溜息をついた。 「参った……やっぱり格闘戦になると、お前の方がもう俺より上だな。」 「ありがとうございます、隊長。 でも、途中で俺も危ないところがあったし……」 「おいおい……隊長はもうやめろと言っただろう?」 「あ……はい、セブン兄さん。」 一切の光線技や超能力を使わない、格闘戦のみによる組み手。 勝負は、レオの勝利に終わった。 こと格闘戦において、今やレオは、光の国でも最強レベルの戦士の一人になる。 しかしそれも、全てはセブンがいたからこそである。 レオはかつて地球防衛の任務に就いた際、セブンから戦う術を教わったのだ。 当時のレオは、光線技を殆ど使えなかった為に、格闘技術をとことん磨かされていた。 時には、「死ぬのではないか」と言いたくなる程の、とてつもなく辛い特訓もあった。 だがそれも……地球防衛の為に、やむを得ずのことであった。 セブンはその時、ある怪獣との戦いが原因で、戦う力を失ってしまっていたのだ。 その為、まだ未熟であったレオを一人前にする事で地球を守ろうと、あえて心を鬼にして接していたのである。 そしてその末、今やウルトラ兄弟の一人となるほどにまで、レオは成長を遂げたのだ。 ちなみにレオがセブンの事を隊長と呼ぶのは、その時の名残である。 「でも、光線技やアイスラッガーを使われたら、どうなっていたか……」 「はは……じゃあ、今日はこれまでだな。 後少ししたら、交代の時間だ……それまで体を休めておけ」 「はい。」 光の国では今、二人一組によるメビウスの捜索が行われていた。 もうしばらくしたら、セブンとレオは前の組との交代時間である。 それまで体を休めるべく、二人は一息つこうとした。 だが……そんな時だった。 訓練場の上空へと、文字―――ウルトラサインが出現したのだ。 「ウルトラサイン……ゾフィー兄さんからのメッセージだ!!」 「『メビウスかららしきウルトラサインを、見つけることが出来た』……!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ちょ、やめろ!! アリア、何とかしてくれ~!!」 時空管理局本局。 クロノとエイミィは、ユーノを連れてある人物の元を訪れていた。 クロノに魔術の基礎を叩き込んだ師匠、リーゼ=ロッテとリーゼ=アリアの二人。 この二人は、グレアムの使い魔でもある。 久々の再会という事で、ロッテはクロノにじゃれ付いている訳で、エイミィ達はそれを面白そうに眺めている。 クロノからすれば、はっきり言って迷惑この上ないのだが。 「……なんで、こんなのが僕の師匠なんだ。」 「あはは……それで、今日の用事はなんなの? 美味しそうなネズミっ子まで連れてきて……」 「っ!?」 身の危険を感じ、ユーノが顔を強張らせた。 リーゼ姉妹は、ネコを素体として作られた使い魔。 フェレットモードのユーノからすれば、天敵とも言える存在なのだ。 人間状態である今は、何の問題も無いが……万が一動物形態へと姿を変えたら、どうなる事やら。 「闇の書の事はお父様からもう聞いてるけど、やっぱりそれ関連?」 「ああ……二人は、駐屯地方面には出てこれないか?」 「私達にも、仕事があるからね。 そっちに出ずっぱりって訳にはいかないよ。」 「分かった……いや、無理ならそれはそれでいいんだ。 今回の用件は、彼だからな。」 「?」 「ユーノの、無限書庫での捜索を手伝ってやってくれないか?」 「無限書庫……?」 「今から、早速頼みたいんだ。 ユーノを案内してやってくれ。」 「うん、そういう事ならいいけど……」 「ユーノ君、二人についていって。」 ユーノはロッテとアリアの二人に連れられ、無限書庫へと向かう。 無限書庫とは、様々な次元世界の、あらゆる書籍が治められた大型データベース。 幾つもの世界の歴史が詰まった、言うなれば世界の記録が収められた場所。 まさしく、名が示すとおり無限の書庫である。 しかし……文献の殆どは未整理のままであり、局員がここで調べ物をする際には、数十人単位で動かなければならない。 必要な情報を一つ見つけるだけでも、とてつもない作業になるのだ。 ユーノはそこへと足を踏み入れた時、正直度肝を抜かれたものの、すぐに冷静さを取り戻す。 クロノが自分に頼むといった理由が、これでやっと分かったからだ。 「成る程、確かに僕向けだね……」 ユーノは術を発動させ、とりあえず手近な本を十冊ほど取り出す。 複数の文章を一度に同時に読む、スクライア一族特有の魔術の一つ。 これを駆使すれば、大幅に調査時間を短縮する事が可能である。 その術を目にし、ロッテとアリアは感嘆の溜息を漏らした。 「へぇ~、器用だね……それで中身が分かるんだ。」 「ええ、まあ……あの、一つ聞いてもいいですか?」 「ん、何かな?」 「……リーゼさん達は、前回の闇の書事件の事、見てるんですよね?」 「あ……うん。 ほんの、11年前の事だからね。」 ユーノは、前回の闇の書事件について詳しく知ってるであろう、二人に尋ねてみた。 闇の書の情報を集める上で、この話はどうしても聞いておきたかった。 ただ……クロノ達には、それを聞けない理由があった。 先日、局員の一人から聞いてしまったのだが…… 「……本当なんですか? クロノのお父さんが、亡くなったって……」 「……本当だよ。 私達は、父様と一緒だったから……近くで見てたんだ。 封印した筈の闇の書を護送していた、クライド君が……あ、クロノのお父さんね。 ……クライド君が、護送艦と一緒に沈んでくとこ……」 「……すみません。」 「ああ、気にしないで。 そういうつもりで聞いたんじゃないってのは、分かってるから。」 やはり、悪い事を聞いてしまった。 これ以上、辛い過去を思い出させるわけにはいかないと思い、ユーノは話を打ち切った。 すると、その時だった。 ユーノはある本のあるページを見て、ふと動きを止めた。 「え……?」 「ユーノ君、どうしたの?」 「まさか……これって……!!」 術を中断し、ユーノは直接本を手に取った。 そこに記載されていたのは、ある世界の太古の記録。 光の勢力と闇の勢力との戦いの記録だった。 こういった戦い自体は、多くの次元世界の歴史中にもある為、なんて事は無かった。 だが……問題は、その本の挿絵にあった。 挿絵に描かれている戦士の姿……それは、紛れも無くあの戦士と同じものであった。 「どうして、ウルトラマンダイナが……!?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「たっだいま~」 「おかえりなさ~い。」 それから、しばらくした後。 まだ本局で用事のあるクロノを残して、エイミィは一人ハラオウン家へと帰宅した。 ちなみにリンディも、別件で先程本局へと出向いた為、不在である。 エイミィは帰り際に近所のスーパーで買い物を済ませていたようであり、その手には買い物袋があった。 フェイトとミライ、それに遊びに来ていたなのはの三人で、早速冷蔵庫に食品を入れ始める。 「艦長、もう本局に出かけちゃった?」 「うん、アースラの追加武装が決定したから、試験運用だってさ。」 「武装っていうと……アルカンシェルか。 あんな物騒なの、最後まで使わなければいいけど……」 「クロノ君もいないし、それまでエイミィさんが指揮代行ですよね。」 「責任重大よね~……」 「ま、緊急事態なんて早々起こったりは……」 その時だった。 ハラオウン家全体に、緊急事態を告げる警報音が鳴り響いた。 エイミィの動きが止まり、その手のカボチャがゴロリと床に落ちる。 言った側からこんな事になるなんて、思いもよらなかった。 すぐにエイミィはモニターを開き、事態の確認に移る。 そこに映し出されたのは、ヴォルケンリッターの二人……シグナムとザフィーラ。 「文化レベルはゼロ、人間は住んでない砂漠の世界だね…… 結界を張れる局員の集合まで、最低45分はかかるか……まずいな……」 「……フェイト。」 「うん……エイミィ、私とアルフで行く。」 「そうだね……それがベストだね。 なのはちゃんとミライ君はここで待機、何かあったらすぐ出れるようにお願い。」 「はい!!」 フェイトは早速自室へと戻り、予備のカートリッジを手に取る。 アルフがザフィーラの相手をする以上、シグナムとの完全な一騎打ちになる。 先日の戦いでは、超獣の乱入という事態の為に勝負はつけられなかった。 今度こそ、シグナムに勝利する……フェイトは強く、バルディッシュを握り締めた。 「いこう……バルディッシュ。」 『Yes sir』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「くっ……!!」 その頃。 二手に分かれ単独行動に移ったシグナムは、現地の巨大生物を相手に苦戦を強いられていた。 先日現れたベロクロンよりも、その全長はさらに巨大。 シグナムは一気に片を付けようと、カートリッジをロードしようとする。 だが、その直後……背後から、十数本もの触手が一斉に出現した。 まさかの奇襲に反応しきれず、シグナムはその身を絡み取られてしまう。 「しまった!!」 何とかして逃れられないかと、シグナムは全身に力を込める。 だが、力が強く振りほどく事が出来ない。 そんな彼女を飲み込もうと、巨大生物は大きく口を開けて迫ってきた。 ザフィーラに助けを求めるにも、今は距離が離れすぎている。 こうなれば、体内からの爆破しかないか……そう思い、覚悟を決めた、その矢先だった。 『Thunder Blade』 「!!」 上空から、怪物へと光り輝く無数の剣が降り注いだ。 とっさにシグナムが空を仰ぐと、そこにはフェイトの姿があった。 フェイトはそのまま、剣に込められた魔力を一気に開放。 剣は次々に爆発していき、怪物を一気に吹き飛ばした。 触手による拘束も解け、シグナムは自由になる。 『ちょっとフェイトちゃん、助けてどうするの!!』 「あ……」 「……礼は言わんぞ、テスタロッサ。 蒐集対象を一つ、潰されたんだからな……」 「すみません、悪い人の邪魔をするのが私達のお仕事ですから……」 「ふっ……そうか。 そういえば悪人だったな、私達は……預けておいた決着は、出来るならもうしばらく先にしておきたかった。 だが、速度はお前の方が上だ……逃げられないのなら、戦うしかないな。」 「はい……私も、そのつもりで来ました。」 空から降り、二人が地に足を着ける。 シグナムはポケットからカートリッジを取り出し、怪物との戦いで失った分を補充し、構えを取った。 それに合わせて、フェイトもバルディッシュを構える。 しばしの間、二人の間に静寂が流れる……そして。 「ハァッ!!」 「うおおぉぉっ!!」 勢いよくフェイトが飛び出し、それに合わせてシグナムも動いた。 二人のデバイスがぶつかり合い、火花を散らす。 すぐさまフェイトは一歩後ろに下がり、再び一閃。 シグナムも同様に、カウンター気味の一撃を放つ。 直後、とっさに障壁が展開されて互いの攻撃を防ぎきった。 「レヴァンティン!!」 「バルディッシュ!!」 『Schlange form』 『Haken form』 二人はそのまま間合いを離すと、カートリッジをロードしてデバイスの形態を変えた。 フェイトは大鎌のハーケンフォームに、シグナムは蛇腹剣のシュランゲフォームに。 シグナムは勢いよく腕を振り上げ、レヴァンティンの切っ先でフェイトを狙う。 フェイトはそれを回避すると、ハーケンセイバーの体勢を取って静止。 その間に、レヴァンティンの刃が彼女の周囲を包囲する。 しかし、フェイトは動じることなくシグナムを見据え……勢いよく、バルディッシュを振り下ろした。 「ハーケン……セイバー!!」 「くっ!!」 光の刃が一直線に、シグナムへ迫ってゆく。 シグナムはとっさにレヴァンティンの刃を戻し、その一撃を切り払う。 その影響で、フェイトのいた場所が一気に切り刻まれ、凄まじい砂煙が巻き起こった。 だがその中から、三日月状の影―――二発目のハーケンセイバーが、その姿を見せてきた。 一発目との間隔が短すぎる為に、切り払う事は出来ない。 すぐにシグナムは、上空へと飛び上がる……が。 「ハァァァァッ!!」 「何っ!?」 上空には、既にフェイトが回り込んでいた。 バルディッシュの刃を、シグナム目掛けて勢いよく振り下ろしてくる。 だが、シグナムはこの奇襲を思わぬ物を使って回避した。 それは、レヴァンティンの鞘。 彼女にとっては、鞘もまた立派な武具だった。 これは流石に予想外だったらしく、フェイトも驚かざるをえない。 その一瞬の隙を突き、シグナムはフェイトを蹴り飛ばした。 だが、フェイトも一歩も引かない。 落下しながらも、カートリッジをロード……バルディッシュの矛先を、シグナムへと向ける。 『Plasma lancer』 「!!」 光の槍が放たれ、シグナムへと真っ直ぐに迫る。 彼女はとっさに剣を通常形態へと戻し、鞘とそれとを交差させる形で防御。 一方フェイトも、着地と同時にバルディッシュを通常形態へと変形させた。 両者がカートリッジをロードさせる。 フェイトが前方へと魔方陣を展開し、魔力を集中させる。 シグナムがレヴァンティンを鞘に収め、魔力を集中させる。 「プラズマ……!!」 「飛龍……!!」 「スマッシャアアァァァァァッ!!」 「一閃っ!!」 膨大な量の魔力が、同時に放たれた。 その威力は、完全な互角。 両者の一撃は真正面から真っ直ぐにぶつかり合い、そして強烈な爆発を巻き起こした。 それと同時に、二人が跳躍する。 「ハアアァァァァッ!!」 「ウアアアアアァァァァァッ!!」 空中で、バルディッシュとレヴァンティンがぶつかり合った。 雷光の魔道師と烈火の将。 二人の実力は伯仲……完全な五分と五分だった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ヴィータちゃん……やっぱり、お話聞かせてもらうわけにはいかない? もしかしたらだけど……手伝える事、あるかもしれないよ?」 丁度、その頃。 別の異世界では、なのはとヴィータが対峙していた。 フェイトが向かって間も無く、ヴィータがこの世界に出現した為、なのはが向かったのだ。 なのはは今、ヴィータと話が出来ないかと思い、相談できないかと持ち掛けていた。 だが、ヴィータはそれを受け入れようとしない。 「五月蝿ぇ!! 管理局の言う事なんか、信用出来るか!!」 「大丈夫、私は管理局の人じゃないもの。 民間協力者だから。」 (……闇の書の蒐集は、一人につき一回。 こいつを倒しても、意味はない……カートリッジも残りの数考えると、無駄遣いできねぇし……) 「ヴィータちゃん……」 「……ぶっ倒すのは、また今度だ!!」 「!?」 「吼えろ、グラーフアイゼン!!」 『Eisengeheul』 ヴィータは魔力を圧縮して砲丸状にし、それにグラーフアイゼンを叩きつけた。 直後、強烈な閃光と爆音がなのはに襲い掛かった。 足止めが目的の、言うなれば魔力で作ったスタングレネード。 効果は十分に発揮され、なのはの動きを止める事に成功する。 その隙を狙い、ヴィータはその場から急速離脱する。 「ヴィータちゃん!!」 『Master』 「うん……!!」 レイジングハートが、砲撃仕様状態へと姿を変化させる。 なのははその矛先を、ヴィータへと向けた。 一方のヴィータはというと、かなりの距離を離した為か、流石に余裕があった。 この距離からならば、攻撃は届かないだろう。 そう思っていた……が。 「え……!?」 『Buster mode, Drive ignition』 「いくよ、久しぶりの長距離砲撃……!!」 『Load cartridge』 「まさか……撃つのか!? あんな、遠くから……!!」 『Divine buster Extension』 「ディバイイィィィン……バスタアァァァァァァァッ!!」 「っ!?」 絶対に届く筈が無い。 そんな距離から、あろうことかなのはは撃ってきたのだ。 そして彼女の照準には、寸分の狂いも無い。 放たれた桜色の光は、まっすぐにヴィータへと向かい……直撃した。 ズガアアァァァァァン……!! 「あ……」 『直撃ですね。』 「……ちょっと、やりすぎた?」 『いいんじゃないでしょうか。』 思ったよりも威力が出てしまっていた事に、なのはも少し驚いた。 まあレイジングハートの言うとおり、非殺傷設定にはしてあるから、大丈夫ではあるだろう。 少し悪い気はするが、これでヴィータが気でも失っていたら、連れ帰るまでである。 数秒後、徐々に爆煙が晴れていくが……その中にあった影は、一人ではなかった。 「あれは……!!」 「……」 ディバインバスターは、ヴィータには命中していなかった。 先日クロノと対峙していた、あの仮面の男が姿を現れていたのだ。 仮面の男は障壁を張って、直撃からヴィータを守っていた。 なのはもヴィータも、呆然として仮面の男を見るしかなかった。 「あ、あんたは……」 「……行け。」 「え……?」 「闇の書を、完成させろ……」 「!!」 仮面の男の言葉を受け、ヴィータがこの世界から離脱しようとする。 とっさになのはは、二発目の長距離砲撃に入ろうとする。 だが、それよりも早く仮面の男が術を発動させた。 この距離からの発動は、通常ならばありえない魔法―――バインド。 光が、なのはの肉体を拘束する。 「バインド……こんな距離から!?」 『Master!!』 とっさになのはは魔力を集中させ、バインドの拘束を解いた。 しかし、時既に遅し……その場には、ヴィータも仮面の男も姿もなかった。 身動きを封じられた隙に、逃げられてしまったのだ。 『Sorry, master』 「ううん……私こそごめんね、レイジングハート。 エイミィさん、すぐそっちに戻りま……!?」 仕方が無い。 そう思い、帰還しようとした……その矢先だった。 突然、強烈な地震が発生したのだ。 空に浮いていた為に、なのはには一切影響は無いが…… 「地震……驚いたぁ。」 『待って、これ……なのはちゃん!! 急いで、そこから離れて!!』 「え……?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― (ここに来て、まだ……目で追えない攻撃がきたか……!! 早めに決めないと、まずいな……!!) (クロスレンジもミドルレンジも、圧倒されっぱなしだ……!! 今はスピードで誤魔化せてるけど、まともに喰らったら叩き潰される……!!) フェイトとシグナムの一騎打ちは、更に激化していた。 スピードで勝るフェイトと、技術で勝るシグナム。 どちらも、決め手になりえる一撃を相手に打ち込めないままでいた。 フェイトにとっては、なのはとの一騎打ち以来の激戦。 シグナムにとっては、何十年ぶりとも言える激戦。 ここまでの苦戦を強いられるのは、お互いに久々だった。 勝負をつけるには、やはり切り札を使うしかないだろうか。 (シュトゥルムファルケン、当てられるか……!!) (ソニックフォーム、使うしかないか……!!) 二人が同時に動く。 次の一撃でもなお決められなければ、もはや使うしかない。 奇しくも、二人の思いは一致していた。 しかし……この直後、思わぬ事態が起こった。 フェイトの胸を……何者かの腕が、貫いた。 「あっ……!?」 「なっ!?」 シグナムは、フェイトの背後に立つ者の姿を見て驚愕した。 その者とは、先程までヴィータと共にいたはずだった仮面の男だった。 彼がヴィータの元に現れたのは、ホンの数分ほど前の出来事。 この世界に転移するまで、最低でも十数分かかる……ありえないスピードである。 いや、この際それはどうでもいい。 今の最大の問題は、彼がフェイトに攻撃を仕掛けたという事実。 フェイトは、完全に意識を失っている。 シグナムはそれを見て、最悪の事態―――貫手によるフェイトの殺害を、考えてしまった。 「貴様!!」 「安心しろ、殺してはいない。」 「なんだって……なっ!?」 「使え。」 男の手のは、フェイトのリンカーコアが握られていた。 使えという言葉の意味は、勿論決まっている。 フェイト程の魔道師のリンカーコアを手に出来たとあれば、一気に相当数のページが埋まる。 シグナムは、こんな形での決着は望んでいなかった。 だが……自分は、はやてを救う為ならば、如何なる茨の道をも歩もうと決意したのだ。 全ては彼女の為……ならば、敢えて汚れ役となろう。 『ザフィーラ、テスタロッサのリンカーコアを摘出する事が出来た。 ヴィータも引き上げたようだし、我々もここで引くぞ。』 『心得た……テスタロッサの守護獣には?』 『ああ、テスタロッサを迎えに来るよう伝えておいてくれ。 それまでの間は……私が、彼女を見ておこう。』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『待って、これ……なのはちゃん!! 急いで、そこから離れて!!』 「え……?」 エイミィが、切羽詰った声でなのはに告げた。 解析してみた所、この地震はある自然災害を併発する可能性が極めて高いと出たのだ。 それは、なのは達の知る自然災害の中でも、最高クラスの危険度を持つもの。 『近くの火山が、もうすぐで噴火しちゃうの!!』 「ええっ!?」 火山の噴火。 テレビなどで何度かその光景は目にしてきたが、それが齎す被害は凄まじいものがある。 この世界には文明が存在しない為、犠牲者は出ないのがせめてもの救いだろう。 すぐになのはは、エイミィに指定された火山から離れる。 それから数十秒後……爆音を上げ、山からマグマが噴出した。 ドグオオオオォォォォン……!! 「うわっ……凄い……」 灼熱色の光が、辺り一面を照らす。 初めて目にするその光景に、なのははただただ呆然とするしかなかった。 それは、モニター越しに見ていたエイミィとミライも同じだった。 しばらくして、噴火は収まるが……その直後。 モニターからけたたましい警報音が鳴り響いた。 なのはの耳にも、それは届いている。 『これって……!!』 「エイミィさん、何があったんですか?」 『気をつけて、なのはちゃん!! 何かが、火山の下から出てこようとしてる!! これは……現地の、大型生物……!?』 「大型生物って……もしかして、この前の超獣みたいな奴……?」 その、次の瞬間だった。 山の麓から、唸りを上げてそれは出現した。 全身が蛇腹のような凸凹に覆われた、色白の怪獣。 足元から頭頂部に向かって体全体が細くなっていくという、特徴的な体躯。 ミライはその姿を見て、驚愕した。 出現したのは、かつて彼が戦った経験のある相手。 どくろ怪獣……レッドキング。 『レッドキング!? そんな、あんなのが異世界にも生息しているなんて……!!』 「ミライさん、もしかして……あの怪獣って、かなり強いんですか?」 『うん、僕も直接戦ったことがあるから分かる。 それに、兄さん達もそれなりに苦戦させられたって聞いてるし……なのはちゃん、相手にしちゃ駄目だ!!』 『見つからないうちに、早く逃げ……え!?』 「……エイミィさん、ミライさん?」 『そんな……大変、なのはちゃん!! フェイトちゃんが……!!』 「えっ!?」 エイミィとミライは、モニターに映し出された光景を見て驚愕していた。 仮面の男により、フェイトのリンカーコアが摘出されてしまった。 幾らなんでも、仮面の男の移動が早すぎる……完全に、予想外の事態だった。 すぐにエイミィは、本局へと連絡して医療スタッフの手配を要請。 その後、アルフにフェイトを救出するよう指示を出した。 「エイミィさん、フェイトちゃんは!!」 『リンカーコアをやられちゃった……!! 今、急いで本局の医療スタッフを送ってもらってる!!』 「分かりました、私もすぐそっちに……キャァッ!?」 フェイトの元へと駆けつけようとするなのはへと、無慈悲な一撃が繰り出された。 それは、レッドキングが投げつけてきた大岩だった。 不運にも、彼女はレッドキングに見つかってしまったのだ。 とっさになのはは、上空へと上昇してそれを回避する。 レッドキングはなのはを一目見るや、敵と判断してしまっていた。 その強い闘争本能に、火がついてしまっていた……最悪としかいいようがなかった。 この様子じゃ、戦う以外に無い様である。 「こんな時に限って……!!」 『なのはちゃん、僕がすぐそっちに行く!! それまで、何とか持ちこたえて!!』 「はい……分かりました!!」 敵のサイズを考えると、確かにミライが一番の適任になる。 彼の到着まで持ちこたえるか。 もしくは……彼が到着する前に、レッドキングを撃破するか。 今は、一刻も早くフェイトの元に向かいたい。 撃破とまではいかなくとも、ミライの到着までにある程度のダメージさえ与えられれば、大分楽になる。 幸いにも、消耗は殆どしていない……やれなくもない。 「いくよ……レイジングハート!!」 『Yes sir』 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1168.html
ノイズ交じりの念話からは、もう悲痛な同僚の悲鳴しか返っては来なかった。 出来ることなら、出せる限りの悪態を吐いてしまいたい気分だ。『畜生』『くそったれ』『ファック』……汚らしいスラングは山と湧いてくる。酷い状況の時こそ人間は負の感情を吐き散らしたくなるのだ。 しかし、それさえも過ぎれば―――もうあとは誰も彼もこう言うしかなくなる。 ああ、『神よ』―――と。 「神よ……」 ティーダもまたそうだった。 右手に握る銃型のデバイス。数々の修羅場を共に潜ってきた長年の友を、手のひらから噴き出す汗で取り落としそうになる。 銃身は小刻みに震え、あたかもティーダ自身の今の心境が相棒にまで伝わっているようだった。 今、ティーダが感じているのは、紛れもない『恐怖』だった。 「畜生! 化け物、化け物めっ!!」 「来るなぁ、来るなよぉおおーーー!」 「助けて、たすけ……!」 空戦魔導師の舞台である空は、今や血染めのダンスホールと化していた。 飛行魔法で高速移動するティーダの耳に届く、文字通り四方八方からの悲鳴。 それらが全て同じ部隊の戦友が生きながら喰われる声だと理解して尚正気でいられるのが、彼自身にも不思議でならなかった。 違法魔導師を追跡、捕縛する任務を受けた数時間前に、こんな地獄の光景を部隊の誰一人として予測し得なかっただろう。 出来るはずがない。 こんな光景が、この世に実現するはずがないのだ。 夜空一体を覆うように浮遊する、おびただしいまでの『人間の頭蓋骨』―――それが、自分の武装隊を襲った者の正体だった。 淡く光る亡霊のような虚ろな輪郭と、頭だけの存在でありながら人間を一飲みに出来るサイズが、それを尋常ではない存在であると証明している。 仲間達は、突如出現したこのおぞましい存在達に次々と喰われていった。 「化け物め……!」 恐怖を悪態で噛み殺し、襲い掛かってくる頭蓋骨の眉間に向かって引き金を引く。 この亡霊としか表現出来ない怪物が人間を襲う瞬間だけ実体化するパターンを、魔力の浪費を経てようやく理解できていた。 「この……っ」 人の頭が弾けるようにソイツは消滅する。 しかし、眩暈のするような数の同種の存在が、今やティーダとわずかな生き残りを完全に包囲していた。 「―――<悪魔>めぇぇ!!」 今度は数体、同時の襲撃を決死の射撃で迎え撃つ。魔力弾は悪夢を吹き飛ばし、消える傍から新しい悪夢がティーダに襲い掛かった。 回避というより逃走に等しい動きで飛行し、この悪夢の原因へ視線を走らせる。 誰もが錯乱し、発狂しそうになる中、彼は最も冷静だった。 まだ視認できる距離にいる、逃走中の違法魔導師。 (奴だ! 『あの男』がこの化け物どもを……!) それが分かりながら、決して追跡不可能ではない距離をその間に浮遊する無数の人骨の化け物が絶望的に遠くしている。 しかし、あの魔導師をどうにかしなければ、自分達はこの悪夢に食い尽くされるしかない。 「うぉおおおおおおおーーーっ!!」 ティーダは残された魔力を全て結集し、最大速力で死の道筋に乗り出した。 群がるように動き始める無数の悪夢。 回避などという余分な行動を取る事は出来ない。あまりに絶望的な前進を、彼は選択した。 「ティアナァアアアアアアアアーーーッ!!!」 断末魔の如き叫びが夜空にこだまする。 それがこの世に遺すことになってしまうであろう、愛しい妹の名であることを、彼に襲い掛かる悪魔どもが知る由などもちろんありはしなかった。 ティーダ=ランスター一等空尉―――逃走違法魔導師追跡任務中に殉職。その死因はもちろん他殺だが、原因だけは依然として判明していない。 ティーダの殉職の知らせを聞き、駆けつけた男の名は<トニー>と言った。 同じ空戦部隊に所属していたわけではなく、むしろ魔導師ですらない。お互いにごく私的な付き合いのある友人だった。 当然、親類や部隊の同僚が出席するティーダの葬儀に招待されるワケもなく、トニーがようやく目的地の墓地に辿り着いた時には、すでに棺が地中へ収められた後だった。 最後の死に顔も拝めなかったことを残念に思い、大きくため息を吐くと、乱れたコートの裾を直して静かに参列者の傍へ歩み寄った。 整然と並ぶ喪服や軍服姿の参列者達の中で、黒いコートで申し訳程度に正装した彼は酷く浮いていたが、厳かな空気の中それを指摘する者はいなかった。 長身のトニーは参列者の最後尾から、祈りの言葉を捧げる神父と棺の収まった穴を見下ろす。 そして、一人の少女を見つけた。 最後に死者へ捧げる為の花と、オモチャの銃を胸に抱いた小さな少女。今年で10歳になったはずだ。 ティーダの、この世に遺された唯一の肉親である妹<ティアナ>だった。 天涯孤独となったティアナは、兄の亡骸の納まった棺を前に、泣くこともなく決然とした表情で前を見据えていた。 トニーの瞳が痛ましいものを見るように細まる。 親しい部隊の仲間は共に殉職し、両親もとうの昔に他界して、この葬儀に立ち会っているのはティアナにとって他人のような遠い血縁と、他人同然の軍人や職員だけ―――。 ティーダ=ランスターの死を、本当に悲しんでいるのは彼女しかいないというのに、その少女自身が涙を流さぬ姿が、トニーには酷く悲しいものに映るのだった。 出直すべきか……。 トニーが気まずげに踵を返した、その時。 「―――名誉の殉職には程遠いな」 囁くような声が、トニーの耳に障った。 参列者の内、軍服を着た者達の間から漏れた言葉だった。小声のつもりだろうが、静寂の中でそれは酷く耳障りに響く。 「航空隊の魔導師として、あるまじき失態だ」 「無駄死にだな。最後の通信を聞いたか? 『悪魔に襲われている』だそうだ」 「状況に混乱し、あまつさえ目標すら取り逃がすとは」 「部隊の面汚しめ」 誰がどれを言っているのかは、もはやどうでもよかった。 ただ、彼らの心無い侮蔑の囁きが、死者とその家族を限りなく傷つけていることだけは確かだった。 彼らの言葉に反応するように、小さな肩を震わせるティアナを見つめ、トニーは返した踵を再び反転させた。その歩みに怒りを宿して。 「おい」 「ん? なんだ君は? ここは関係者以外……」 全て言い切る前に、男の顔には鉄拳がめり込んでいた。 男が意識を手放し、鼻血を噴出して昏倒すると同時に、トニーの周囲を敵意が取り囲む。 「な、なんだ貴様!? 我々は時空管理局の―――」 「さっきのふざけた言葉を言ったのが誰か、別に探し出すつもりはないぜ」 怒りで脳の煮え滾ったトニーは全てを無視して、ターゲットを軍服を着たその場の全員に決めた。 「あの毎朝トイレで聞くような腐った言葉を聞き流した、テメエら全員が同罪だ。一人残らず顔面整形して帰んな」 「取り押さえろ!」 周囲が騒然とする中、トニーは厳かに告げる。その場の管理局員全てを敵に回し、彼は拳を振り上げた。 数分をかけて、トニーは自分が言ったとおりの事をやった。 「な、何のつもりですか……! この静粛な場で、アナタはなんという……っ」 死屍累々と横たわる管理局員達。彼らの顔面を一つ残らず陥没せしめた元凶の男を震える指で指し、神父は恐怖と怒りを向けていた。それ以外の参列者はほとんどその場から逃げ出してしまっている。 トニーは神の使いに中指を立てて応えた。 「死者を罵るのが静粛かい? とっとと失せな。ここはティーダが眠る場所だ」 言って、周囲を睨みつけるトニーの凄みに、残った者達も慌ててその場から逃げ出した。 静寂を取り戻した墓地に残されたのは、トニーと、彼の友人の眠りを妨げた愚か者の末路、そしてただ黙って事の成り行きを見守っていたティアナだけだった。 「悪いな、余計に騒いじまって」 「いい……ありがとう」 バツの悪そうなトニーに、再び棺に視線を落としたまま、ティアナは小さく礼を言った。 ティーダの眠る棺の前。トニーとティアナは肩を並べて佇む。 「……あなた、お兄ちゃんの知り合い?」 「個人的な友達さ。趣味が合ってね、コイツには『こっち』に来てから世話にもなった」 答える声に哀愁の色は無かったが、この男が兄の死を悼んでいることが幼いティアナにはなんとなく理解出来た。 トニーが持参した酒瓶を棺の横に添える。それに倣うように、ティアナが花を放る。 そして、沈黙が流れた。 沈痛なそれではなく、ただ穏やかな静けさが。 周囲が兄を『無能』『役立たず』と評する中、ただ静かに悲しんでくれる目の前の男の存在が、初めて救いのように思えた。 「……ねえ、お兄ちゃんは『役立たず』でも『嘘吐き』でもないわ。お兄ちゃんは頑張った。そして、頑張ったお兄ちゃんを殺したのは、<悪魔>なのよ」 「ああ、そうだ」 独白のようなティアナの言葉を、当然のようにトニーは肯定した。 それは、彼女への慰めでも相槌でもなく、歴然とした事実だったからだ。 「<悪魔>は実在する。 そして、ティーダはそいつらを命と引き換えに倒したのさ。さっきのクソどもが呑気にバカを言えるのも、全部そのおかげなんだ」 断言するトニーの決然とした横顔を、ティアナは見上げた。 妄言を吐く狂人を見るような眼ではなく、ただ真摯に見据える少女の瞳がそこにあった。 「―――俺は、ここに誓いに来た。ティーダ、お前を殺った奴は、この俺が必ず切り裂いてやるってな」 「なら、それはあたしに誓わせて」 今度はトニーがティアナを見る番だった。 「ティーダ=ランスターの仇は、妹のティアナ=ランスターが取る。そして、お兄ちゃんの果たせなかった『執務官』の夢を引き継ぐ!」 少女の誓いの叫びが、静寂の中に響き渡った。 激情と共に湧き上がる涙を拭い、しかしもう二度と泣かぬと決める。 その少女の尊く痛ましい姿を、トニーはかつての自分を見るような瞳で捉えていた。 胸中に去来する感情は酷く複雑で、しかし唯一つ言えることは―――自分が亡き友人の為に出来ることは、この少女の行く末を見守り、支えることだけだということだった。 諦めと安堵の中間のような苦笑を漏らし、トニーはそっとティアナの頭に手を添えた。 「OK。聞いたぜ、お前の誓い。それが良い事なのかは分からんがね」 「後悔はしないわ」 涙を止めたティアナは、トニーの手をそっと取り払った。 「……ねえ、ところであなたの名前はなんていうの?」 そして、兄よりも高い位置にある顔を見上げ、改めて尋ねた。 トニーがニヤリと笑う。それは彼の生来持つ、お得意の不敵な笑みだった。 「トニー。トニー=レッドグレイヴだ、お嬢さん(レディ)―――だけど、お前には特別に『本当の名前』を教えておいてやるよ」 不思議そうな顔をするティアナに、彼は悪戯っぽくウィンクしてから答えた。 「俺の名は<ダンテ>だ―――」 魔法少女リリカルなのはStylish 第一話『Devil May Cry』 『<ダンテ>について何か教えろって? あんた、奴の何が知りたいんだ? 生憎、俺はあいつが何を考えてるのかすら分かりゃしねえよ。 この間だってそうさ。 いきなり事務所をおっ建てるとか言い出して、いい物件を探しといてくれ、ときた。 しかもできるだけ物騒な場所にしてくれとかぬかしやがる。商売する気があるんだかないんだか……。 ま、俺も仕事だからちゃんと物件は探してやったがね。 廃棄都市街の一角さ。無断居住者がゴミみてえに集まる無法地帯。ミッドチルダに点在する黒染みみたいな場所だな。まあ、その住人の一人である俺の言えたことじゃねえが。 管理社会のミッドチルダで物騒な場所と言えばこれくらいしかねえ。時空管理局の管理から零れた肥溜めだ。 お気に召したらしく大層喜んでたよ。 ミッドチルダじゃ見たこと無いタイプの人間だ。社会に適応できないはぐれ者の溜まり場の中で、アイツだけがギラギラとやけに光って見える。 笑うとガキみたいな顔をしやがるくせに、仕事となりゃ魔導師でもねえのに魔力弾の雨の中を妙な剣一本で駆け抜けていく―――そういう奴さ、ダンテってのは。 ―――家族? ああ、最近小さなお嬢ちゃんを連れて回るようになったみてえだが。 死んだダチの妹らしいが、しかし引き取ったとは聞いてねェな。さっきも言ったが、奴が何を考えてるかなんて俺には分からねえのさ。 まあ、奴の家族らしいものなんてそれくらいしか思いつかねェ。何も分からねェんだ。 1年前、フラッと現れていつの間にか居座っていた。誰も気付かなかったのに、今は誰もが奴に目を向ける。 付き合いの長い俺から見ても謎の多い奴さ。 そんなに気になるなら、直接会ってみな。とびっきり物騒な場所に、奴の<店>はある。 どんな店かって? そりゃ行ってみれば分かるさ。 暗闇の中でバカみたいに派手なネオンの看板を見つけたら、それがそうだ。 店の名前は奴が考えた。ダンテにピッタリさ、何せ奴が相手ならきっと『悪魔だって泣き出す』だろうからな。 ―――その店の名前は<Devil May Cry> この世からあの世に渡りをつけられる、唯一の場所だ』 とある情報屋の証言より。 シャワーの音に紛れて事務所の方から電話のベルが聞こえた。 念願の仕事の到来に、ダンテは口笛を鳴らす。 ポンコツボイラーの湯の温度は常に熱すぎるか冷たすぎるかで、毎度の事ながらお世辞にも快適なバスタイムとは言い難かったが、自分を呼びつけるベルの音に機嫌はよくなっていた。 未だに事務所の借金を抱える身としては、金になる仕事はありがたい。 何より、怠惰な日常は度を過ぎれば苦痛だ。人生を楽しくするには刺激が必要なのだ。 汚れ物のバスケットの中から最もマシと思えるタオルを選んで体を拭き、半裸の肩から湯気を上げながらダンテは扉一枚隔てた事務所へと顔を出した。 途端、電話のベルが止む。 「デビル・メイ・クライよ」 店主以外の少女が、電話を取っていた。 電話の対応をする不法侵入者に対するリアクションを軽く肩を竦めるだけに留める。店に鍵など掛けた試しはなかったし、シャワーやトイレを貸してやるくらいの度量はある。 何より、その少女はダンテの数少ない知人だった。 「―――いえ、悪いけどウチはもう閉店時間よ」 受話器越しに数言聞いただけで、少女は素っ気無く電話を切ってしまった。 「ヘイヘイ、お嬢さん。店主の俺の意見も聞かずに切るなよ」 「『合言葉』がなかったわ」 「余裕があれば、そういう選り好みもするんだがな。このままじゃ干上がっちまう」 「それで、また前みたいに小銭で女の子の猫探しを引き受けちゃうんでしょ?」 「いい男は女に優しいからな。第一、あれはお前が受けたんだぜ―――ティア」 じゃれ合うような軽口の応酬の後、ダンテと月日を経て13歳になったティアナは笑い合った。 「今日は一体どうしたんだ? しばらく試験とかがあるから、こっちには寄り付かないって言ってなかったか?」 「うん、その事で結果を報告に来たんだけど……」 「おっと、その前にこっちの用事を済ませてくれ。いい知らせは後で聞いた方がいい」 ティアナの顔に浮かぶ喜色の笑みから、それが朗報であることを悟ると、ダンテは苦笑しながら台詞を遮った。 乱雑な調度品の中で唯一事務所らしい備品である机の上に無造作に放られた銃型のデバイスを手に取る。 弾丸こそ入っていないが、頑強なフレームで構成されたそれは武器としての凶悪さを表していた。 「最近コイツの調子が悪いんだ。ちょっと見てくれ」 ダンテは手馴れた仕草でデバイスを振り回すと―――おもむろに銃口をティアナの眉間に突きつけ、ぶっ放した。 炸薬を使用した弾丸とは違う、高密度の魔力弾が空気の炸裂音と共に飛び出す。 それは絶妙のタイミングで首を逸らしたティアナの頬を横切り、いつの間にか背後で大鎌を振り被っていた黒い影に直撃した。 人ならざる影は、見た目どおりの怪物染みた悲鳴を上げて魔力弾に吹き飛ばされる。 「―――本当ね、魔力の集束率が落ちてるみたい」 何の前触れもなく撃たれた事にも得体の知れない敵が出現した事にも関心を示さず、影が再び立ち上がろうとする事だけにティアナは頷いて返した。 ダンテの魔力はカートリッジの使用なしで絶大な威力の攻撃を可能にする。普段なら仕留め損なうなど在り得ないのだ。 「フレームの歪みかしら? 結構気合い入れてチューニングしたのに」 ぼやきながら、ティアナは自分のデバイス<アンカーガン>で立ち上がろうとした影の頭らしき場所を無造作に撃ち抜いた。 致命傷を与えられた影の怪物は、そのまま最初からいなかったかのように消滅していった。 ―――闇が凝固し、人の形を取って人に襲い掛かる。 そのおぞましい光景が現実に起こることを、知る者は少ない。 日常を侵食する異常―――『それら』を知り得るのは、『それら』を駆逐する者達だけである。 ダンテと、この数年間彼の傍にいたティアナの、この二人しか知らない。 それらは<悪魔>と呼ばれることを―――。 「それにしても、相変わらず『こいつら』はダンテに引き寄せられるみたいに現れるわね」 ダンテからデバイスを受け取り、椅子に腰を下ろしながらティアナは先ほどまで影が凝固していた場所を見た。 今はもう跡形も無い。 「熱いアプローチは大歓迎だが、別の場所でお願いしたいね。そうすりゃ仕事になる。ぶっ殺すのには変わりないんだからな」 「でも、出現頻度はなんだか最近上がってるみたい。公にはされてないけど、クラナガンの方でも『出た』らしいわ」 「管理局も忙しくなりそうだ。<悪い魔法使い>の次は、<悪魔>が相手と来た」 「あたしも、もう他人事じゃなくなるけど……」 ダンテのデバイスを弄りながら小さく呟いたのを、相手は聞き逃さなかった。 「へえ。じゃあ、やっぱりいい知らせかい? 陸士訓練校ってヤツの試験に受かったんだろ?」 「うん、まあね」 「ハハッ、やったじゃねえか! 来いよ、キスさせてくれ」 「バカ」 大仰に両手を広げるダンテに対して素っ気無く返しながらも、それが照れ隠しであることはティアナの赤い顔を見ればすぐ分かる。 肉親を失い、兄の夢であった執務官を目標に努力してきた。その孤独な奮迅を、目の前の男だけがずっと見守り続けてきてくれたのだ。 その彼からの祝福の言葉に胸から込み上げるものを、ティアナは何気ない表情の下に押し隠した。 「しかし、そうなると俺の愛銃を整備する人間がしばらくいなくなるな。まいったぜ」 「そう思うなら、もうちょっと丁寧に扱いなさいよ。アマチュアの自作とはいえ、単純な簡易デバイスだからその分頑丈に作ったのに……」 ティアナのアンカーガンもそうであるが、ダンテの銃型デバイスは、同じ変則ミッド式を扱うよしみとしてティアナが自作したものだった。 ただ魔力弾を放つだけのシンプルな機能しかない分、フレームの強度はアームドデバイス並のはずだが、それすらダンテの酷使に耐え切れずにダメージを負ったのだ。 「せいぜい気をつけるさ」 返答とは裏腹に、ダンテは性に合わないとばかりに肩を竦めた。 「いざとなったら、裏に仕舞ってある『本当の銃』を使うしな。相棒はいつでも準備万端さ」 「質量兵器が違法なのは分かってるわよね?」 「おいおい、別にミサイルや爆弾を使わせてくれって言ってるわけじゃないんだぜ?」 「大小は関係ないのよ。あたしも今年からそれを取り締まる側に回るんだからね」 「大丈夫さ、もし取調室で目が合っても他人のふりをしてやるよ」 「そういう問題じゃないっての……はい、終了」 メンテナンスを終え、ティアナがデバイスを手渡す。 ダンテはここ数年で第二の相棒として大分手に馴染んだそれを軽く玩び、クイックドロウのパフォーマンスを決めた。 ティアナに言わるとこの「頭の悪いカッコよさ」にこだわるのが、彼のスタイルだった。 「―――それじゃあ。報告も済ませたし、もう行くわ。またしばらく顔は出せなくなると思う」 「なんだ、随分と急ぐな? 馴染みの店でパーティーしようぜ」 「訓練校も寮制だから、準備とかもあるし……。訓練が始まったら、休みもなかなか取れないと思うから」 急くように立ち上がり、店を出ようとするティアナだったが、その言葉が全て言い訳に過ぎないと自覚していた。 素直になれない少女を数年間見続けてきたダンテは、心得たものだと苦笑する。 「なるほど、長居すると余計恋しくなるってワケか」 「な……っ! ち、違うわよ、バカ!」 反論の説得力は赤面する顔が全て台無しにしていた。 ニヤニヤと笑うダンテに何か言おうとして、それが無駄だと悟ったのか、あるいは図星を突かれたと認めたのか、ティアナは顔を赤くしたまま背を向けた。 そのまま出て行こうとするティアナに、ダンテは笑いながら声を掛ける。 「―――がんばれよ。お前ならやれるさ」 不意打ちだった。 普段の調子のいい口調ではなく、優しい言葉だった。 「……っ」 熱いものが目元まで沸きあがってくる。 それを堪え、ティアナは精一杯の気持ちで素直じゃない自分の口を開いた。 「……あたしの兄弟は、死んだ兄さん以外いないって……そう思ってる。でも……っ」 同情でも哀れみでもなく―――ただ、いつも傍で見守っていてくれた。 「頑張ってくるわ……兄貴」 その言葉を口にした一瞬だけ、ティアナにとって兄は二人になった。 「<兄貴>ねぇ……」 気に入りの椅子に身を預け、ダンテは楽しそうに呟く。 ティアナの立ち去った後の扉を眺めているだけで、ニヤニヤと思い出し笑いが口の端を持ち上げた。 「呼ばれるのは新鮮だな」 悪くない。悪くない気分だ。 あの少女と共にいた数年間。特別意識したことなどなかったが、あれでなかなか可愛げのある妹分ではないか、と思う。 なんとなく他人のように思えなかったのも事実だ。 あれで器用そうに見えて不器用にしか生きられないところなど、自分とよく似ている。 <この世界>に来てから、以前とはまた違った出会いと別れの連続だ―――。 「悪くないね。刺激があるから人生は楽しい……そうだろ?」 応えるように電話のベルが鳴った。 投げ出した足が机を叩き、反動で受話器が宙を舞う。 それをキャッチすると、ダンテは受話器越しに相手が震え上がるようなクールな声色で囁きかけた。 「デビル・メイ・クライだ―――」 その日、多忙な筈の無限書庫司書長は珍しく優雅な午後の紅茶を楽しめていた。 未開の無限書庫のデータベースに手をつけて以降、圧倒的な仕事量とそれに反比例する人手不足に忙殺され続けているが、ふと嵐が過ぎるように休暇が取れる。 その貴重な時間を彼は食堂の片隅で安息と共に噛み締めていた。 「ユーノ君!」 「なのは! 久しぶり」 そして、そんなささやかな時間に二人が顔を合わせられたのは、ちょっとした幸運ですらあった。 ユーノ=スクライアと高町なのは。 互いに働く部署が分かれて以来、再会が数ヶ月越しになる事すらある、未だ友人以上恋人未満のラインに留まる幼馴染の久方ぶりの対面だった。 珍しく誰も同伴していない二人は、向かい合って再会を喜び合う。 「ユーノ君、休み取れたんだ?」 「休憩ってレベルのものだけどね。相変わらず本を相手に大忙しだよ」 「大変だね。でも、その割りに休憩時間まで本と一緒なの?」 苦笑しながらなのははユーノの手元を指差した。 飲みかけのレモンティーと、古ぼけた本が一冊がページを開いて置いてある。 「うん、ちょっと珍しい本を見つけてね。仕事とは関係ないんだ」 ユーノの指がなぞる先には、とても文字とは思えない難解な模様が何行も描かれている。 専門外のなのはにはワケが分からない代物だったが、しかしそれはユーノにも言えることだった。 「見つけたのは偶然だったけどね、これは僕にも読めないよ。読書魔法の解読も効かない。どうやら文字ですらないみたいなんだ」 「ふーん。でも、何の魔力も感じないみたいだけど」 「うん、この本自体はただの記録媒体に過ぎない。魔道書の多い無限書庫では珍しい本なんだ。 だけど、内容は見たことも無いほど複雑に出来てる。文字に見えるのは、実は伝説を主張するレリーフの集まりみたい。だけど比喩が深い。これを読み解くには、純粋に膨大な知識が必要になるだろね」 「へぇ……」 そんな物を休みの時間まで使って解読しようとするあたり、根っからの学者肌であるユーノらしかった。 だが、なのはにも何となくその気持ちが分かった。 ページの破れや染みに長い歴史を刻んだ、いかにも伝説の書物と言った風情のそれが纏う雰囲気は、人を惹きつける魔性のようなものを感じる。 「『されど魔に魅入られし人は絶えず』―――」 「え?」 不意に呟かれた言葉に、なのははドキリとした。 「本にあった一説だよ。この一行を解読するだけでも、すごく時間がかかったけど……どうやらこれは<悪魔>について記した本らしい。よくある神話の本さ」 「<悪魔>……」 <悪魔>という言葉を完全にゴシップとして捉えたユーノとは反対に、なのははその単語が酷く心に残っていた。 管理局内で囁かれる噂を思い出したのだ。 実際に被害が出ているのに、それ自体はまるで与太話のように信憑性を失っている、奇妙な噂。 ―――魔導師たちの中に<悪魔>に襲われた者たちがいる。 被害記録は確固として残りながら、誰もが被害者の報告を信じない。まるで人の無意識が、それから目を逸らそうとしているかのように。 「……続き」 「うん?」 「他に、読める所はないの?」 なのはの中で、その本への興味が大きくなりつつあった。 「そうだな、まだ手をつけたばかりだから……そう言えば、少ないけど共通して使われてるフレーズがあるね」 「それって?」 「<スパーダ>っていう単語だよ」 スパーダ―――。 なのはは自分でも知らぬ内に、その言葉を深く心に刻んでいた。 不意に時計が時刻を告げるアラームを鳴らす。昼の休憩時間が終了したのだ。 なのはは思考を切り替え、ユーノとの別れを惜しみながら立ち上がった。 「―――そう言えば、なのは。この本のタイトルなんだけど……」 立ち去るなのはの背に声を掛け、ユーノはその名を告げた。 その名を<魔剣文書>という―――。 後に、高町なのはにとって重大な事件に発展する、これがその最初の一端に触れた瞬間であった―――。 to be continued…> <ダンテの悪魔解説コーナー> サルガッソー(DMC1に登場) アフリカ大陸の西に広がる広大な海域は、計器や通信技術の発達していない昔に航海の難所として有名だったらしい。 いわゆる船の墓場。その海域の名こそが<サルガッソー>ってワケだ。 それと同じ名を持つこの悪魔は、海と魔界の狭間を行き来する低級な連中で、近くに生命を感じると反射的に実体化して喰らいついてくる。 見た目は捻りの無い『しゃれこうべ』の亡霊だが、必ず集団で現れる脅威と不気味さだけは十分な恐怖だな。 前記した特性の通り、距離を取った状態での攻撃は効果が無い。 だが、その特性を知ってるだけで敵の怖さは大分違ってくる。近づいて、実体化したところを好きに料理してやるといい。 知能も耐久力も並以下だが、唯一数だけが脅威だ。サルガッソーの遭難で帰れなくなった船みたいにならないよう、せいぜい油断はしないことだぜ。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2629.html
「なーんか、前にもあったような光景やねー」 直立不動で無言を貫くなのはを見つめ、はやては気だるげに呟いた。 目の前の親友を責めるつもりなどないが、こうも問題が立て続けに起これば頭の一つも抱えたくなる。 皮肉とも取れるはやての言葉を聞き流すなのはの表情は鉄のように固まっていたが、内心がどうなっているかは全く分からない。 ティアナとの模擬戦から半日――その経緯と結果を把握したはやては先日のように当事者を部隊長室へと呼び出していた。 未だ医務室で眠り続けるティアナだけが、以前と違ってこの場にいない。後は全て焼き回しのような状況だった。 「……報告書は全部読んだ。模擬戦の記録も見た」 淡々と告げるはやての傍らではやはり同じようにグリフィスが銅像のように立っていた。 後ろ手にデータ記録用の小型ボードを持っている。 「結論から言うと、まあ今回の出来事は模擬戦の延長――処罰与えるほどの内容ではないと判断したわ。 ティアナとなのは教導官にはもちろん負うべき罰もなければ、そもそも問題も無い。ティアナの行動に対して教導官がどう判断を下すかにもよるけどな」 「何も、問題ありません」 なのはは即答した。 以前の出撃のように実質的な被害や違反など無く、なのは自身、ティアナへの影響も考えて今回のことを拗らせるつもりはなかった。 しかし、その返答にはやては鋭い一瞥を返す。 「そうやね。問題があるとすれば、ティアナ自身が孕む今後の危険性といったところか――」 なのはは息を呑んだ。 今回のティアナの行動自体は問題にしなくても構わない。だが、其処に至る心理的要因をはやては指している。 部隊は複数の意思の統括によって成り立っている。歯車は狂ってはならない。全体の崩壊を招く。故に、その兆しが見えるものは――。 はやては暗にそれを告げていた。 「教導官、新人の教育はアンタの仕事や。実力を見極め、部隊の任務遂行に適切かどうかを判断する。分かってるな?」 「……はい」 「ティアナのことに関して、私は口を挟まん。それに関してはスターズ隊長の高町なのは教導官に一任しとる。 その責任の重さを理解した上で、今後の彼女の処遇について一考願いたい。下手な甘さはティアナ自身にも、何より機動六課の存続にも宜しくないんやからな」 「……了解しました」 鉄の仮面は消え失せ、苦悩の色が教導官としての顔に浮かび上がった。 力無く頷く親友の姿に、胃の痛くなるような罪悪感を感じながらも、しかし八神はやては機動六課の総責任者であった。 甘えや馴れ合いは許されない。自らの掲げた理念の下に集った者達を裏切る行為は決して許されない。 そして、そのはやての責務を知るからこそ、なのはにとって彼女の言葉は何よりも重く圧し掛かるのだった。 判断しなければならない。 ティアナは一度、故意にミスを犯した。その結果、仲間が傷付いたのだ。 二度目を許してはならない。今度は、自分達が守るべき者が傷付き、更にはそれよりも最悪の事態に陥らない為に。 その為に、ティアナをもう一度信じるのか、あるいは――。 「高町教導官」 グチャグチャな頭の中で悩み続けるなのはが無意識に退室しようとする足を、唐突にグリフィスが呼び止めた。 まるで銅像が動いたのを見たような小さな驚きで振り向くなのはの前に、持っていたボードを差し出す。 「……何?」 「念の為、目を通しておいてください」 受け取り、そのウィンドウに表示されるデータを流し見ていたなのはは徐々に顔色を変えていった。 そこに映る複数の人物の顔写真と個人情報が意味する、グリフィスの無言の意図を察して、思わず睨みつける。 「グリフィス君……何、これ?」 「ティアナ=ランスター二等陸士の後釜として適任と思われる管理局魔導師のリストです」 事も無げに告げ、グリフィスは眼鏡を押し上げた。 反射する光によって真意を映す瞳が隠される。それがなおの事、彼の淡々とした無感情な対応を助長させていた。 「いずれも六課設立に当たり、引き抜くメンバーとして次点にいた者達です。 能力的には多少劣りますが、十分に水準は満たしているでしょう。いずれも高町教導官の指揮下に入ることに積極的です。どうぞ、こちらも御一考ください」 「はやてちゃんっ!」 「いえ、これは自分の独断です。必要だと感じたので」 食って掛かろうとするなのはを平坦な声が制する。 なのはは目の前の青年がどうしてここまで冷淡になれるのか不思議でならなかった。 グリフィスとの付き合いは決して長く無いが、同時に短くも浅くも無い。彼がもっと若い頃から同じ仲間として過ごしてきた。ひたむきな青年だった。 そんな彼が別人に変貌したかのような無感情な顔を見せていることにショックを受ける。 そして、同時に湧き上がる怒りもあった。 同じ志を持つ機動六課のメンバーでありながら、グリフィスはティアナを既に切り捨てるべき部分だと認識しているのだ。 「必要ありません!」 それまでの苦悩が吹き飛び、なのはは迷い無くボードをグリフィスにつき返すと、肩を怒らせながら退室した。 普段温厚ななのはの怒声を一身に受けながら、やはりグリフィスは変わらぬ一貫した態度のまま、淡々とはやて傍まで戻る。 「……ちょっと煽りすぎたんちゃう? 好青年のグリフィス君の印象ガタ落ちやで」 「それでなのはさんの後押しが出来るのなら安いものです」 「顔で笑って、背中で泣いて。損な役回りやねぇ」 「誤解のないように言っておきますが、自分はコレも十分に考えに入れるべきだと思っています」 釘を刺すように、グリフィスは手に持ったボードを掲げた。 「確かにランスター二等陸士は優秀な人材ですが、機動六課の存続を脅かす不確定要素を抱えてはいられません」 「分かっとるよ。あまり悩む時間もあげられんしな」 どんな時でも、犯罪に『対応する』部隊である管理局にとって時間は敵だった。 与り知らぬところで事態は動き続けている。 何よりも、そういった事態に対して即対応する為に機動六課は作られたのだ。 「――それでも、他人が集まって一つの事を成そうと言うんや。摩擦の一つや二つ起こるやろう」 頭を悩ます問題がズラリと並ぶ中、はやてはあえて笑って見せた。 人間関係、摩擦、衝突――大いに結構。それに苦悩しながら対応するのも大将のお仕事だ。その為の地位と高給だ。 ある種、開き直りにも似た心理で、今回のなのはとティアナの問題を受け入れている。 「判断は二つに一つ。『信じる』か『信じない』か――。 個人的には前者を選びたいなぁ。仲間っていうのは、信頼し合ってこそナンボやろ? ムラも人間的な成長の一つやん。誰かて最初から完璧な人間なんておらんし、そんなんおったら規格化された部品と一緒や。悩んで、迷って、それでも歩いていけるのは<人間だけの力>なんやから。 それこそが、機動六課の持つ真の強みや」 そう呟くはやての言葉には、人間の可能性を信じる希望が込められていた。 「やはり、機動六課の大将はアナタです」 組織としての人間的な部分を任せ、自らが機械的な部分を担うと決めた上司の真意を再確認して、グリフィスは満足そうに頷いた。 魔法少女リリカルなのはStylish 第十七話『Tear』 まず見慣れない天井が眼に入った。 「……あれ?」 「あら、もう目が覚めたの?」 一瞬自分の置かれた状況を理解出来ないティアナの傍らで、驚いたような声が聞こえる。 跳ねるように上体を起こし、室内と眼を丸くする白衣姿のシャマルを見渡して、ティアナはようやくここが医務室なのだと把握した。 同時に、此処に至る経緯が鮮明に思い起こされる。 「そうか、あたし訓練で……」 混乱していた頭が急速に冷えていく。それは諦めにも似ていた。 「負けたんだ」 皮肉なことに、敗北し、頑なだった意志を砕かれた今、落ち着きを取り戻すことでティアナには正常な思考力が戻っていた。 あの時の自分が、性急過ぎたことを――認めていた。 だが、心身に感じるのは落ち着きというよりも、むしろ脱力だった。 一つの答えが出た。そして、何かが終わった。失うという形で。 それは余りに多すぎたのではないだろうか。信頼していた相棒、案じてくれた仲間、諭してくれた上司、自分の居場所――全て自らの意志で振り払ってしまった。 これから、自分は一体どうなるのか――。 自嘲の笑みしか出てこなかった。 その表情をあえて見ないふりをして、シャマルは訓練着のズボンを持ってくる。今のティアナは半裸も同然だった。 「なのはちゃんの訓練用魔法弾は優秀だから、体にダメージはないと思うけど」 「……訓練用じゃなかったら、きっと今頃あたしは火星まで吹き飛んでますよ」 「あははは」 話でとはいえ模擬戦の結果を知ったシャマルは苦笑いを浮かべるしかない。 ティアナの表現が冗談にしては笑えないものだからだった。実際は、きっと跡形もなく消し飛んでいたに違いないだろう。 大型ミサイルの爆発に巻き込まれたのに生き残れたようなものだ。 非殺傷設定とはそれほどまでに慈悲深く――そして、同時に残酷なものでもあった。 完膚無きまでに叩きのめした敗者を、どうあっても生かすのだから。 「……外、暗いですね」 簡単な質問で診察するシャマルに生返事で受け答えながら、ティアナは窓の外を見ていた。 昼前の模擬戦で意識が途絶え、今はもう完全に日の落ちた夜となっている。 「すごく熟睡してたわよ、死んでるんじゃないかって思えるくらい」 「すみません。それ、シャレになってませんから」 「あははっ、ごめんね。でも、魔力ダメージ以外に疲労による衰弱も原因してるわ。最近、ほとんど寝てなかったでしょ? その疲れが、まとめて来たのよ」 「そうですか……お世話になりました」 「よかったら、もう少し休んで――」 言い終える前に、いつの間にかズボンを履いたティアナは医務室のドア前まで移動していた。 足取りはしっかりとして、とてもさっきまで気絶していた動きではない。 呆気に取られるシャマルを尻目に、ティアナはさっさと部屋から出て行った。 「……ホント、驚きなんだけどねー」 穏やかな笑みを消し、真剣そのものの顔つきでシャマルはティアナの背中を見送った。 なのはのディバインバスターを受けたティアナは、本来は丸一日は目が覚めないはずだったのだ。だが、あの模擬戦からまだ半日も経っていない。 体力や精神力云々の問題ではない。 魔力ダメージへの耐久性の高さ――ティアナのそれは一般魔導師の範疇を軽く超えている。 訓練校での成績からBランク試験の結果に至るまで、計測されたティアナ=ランスターの能力値ではありえないものだった。 「人間離れに近いわね……」 シャマルは呟き、デスクに備えられたコンピュータ端末に目を向けた。 模擬戦のデータからも感じた違和感を確かめる為に、ティアナが気絶している間に生体データを記録しておいたのだ。 これを調べることで、どんな事実が判明するかは分からない。 ただ、予感がする。良いものか悪いものは判断がつかないが。 「……なんだか、不穏なフラグ立ててるみたいで嫌ねぇ」 頭の中に思い浮かぶ懸念を、独り言で茶化しながらもシャマルは端末へと向かっていった。 『巡洋艦隊より入電。巡洋艦隊より入電』 ボギッ。あまり宜しくない音を立てて、割り箸が変な所からへし折れた。はやては眉をひそめて、カップの上に箸の残骸を置く。 カロリーブロックで済ませた夕食に比べれば幾分まとな食事とも言えるカップ麺がようやく三分経ったというに。実際に食うのは、今度は30分くらい先になりそうだ。 『東部海上に未確認飛行物体が都心に向けて高速で多数接近中。ガジェットドローンと思わしき機影。直ちに迎撃へ向かわれたし』 「しっかり夕食食べて、適度な休息を挟んだから、そろそろ犯罪起こしましょってか? こっちの事情も考えてや」 端末から告げられる報告に悪態を吐き、はやては椅子を蹴って立ち上がった。 上着を羽織り、食べ頃のカップ麺を泣く泣く放置して司令室へ向かう。 隊舎内は緊急警報が鳴り響き、滑り込んだ司令室はおそらく三度目の実戦となるであろう前兆に緊迫感が満ちていた。 「詳細を報告!」 部屋に入り、開口一番にはやては叫ぶ。 「ガジェットドローン、機体数は現在12機。旋回飛行を続けています」 「レリックの反応は?」 「今のところ、付近に反応はありません」 「挑発行為か……」 オペレーターとグリフィスのやりとりの間で、はやてはすぐさま敵の目的を推測した。 「敵は新型か?」 「飛行機能を強化した<Ⅱ型>です。ですが――」 報告の最中でモニターが海上を飛行する敵影を映し出した。 それを眼にした途端、司令室に僅かなどよめきが湧き上がる。さすがに三度目ともなると比較的落ち着いたものだ。 「……なるほど、また<寄生型>か」 映し出されたガジェットには、航空的な曲線フォルムの装甲に奇怪な肉片がへばり付いていた。 巨大な眼球を持つそれは、無機質な戦闘機であるガジェットを未知の飛行生物へと変貌させている。 鳥でも飛行機でもないソレが夜空を舞う姿は、ある種の悪夢にも見えた。 「奴さん、ホテルでの一件以降<アンノウン>との繋がりを隠さんようになったようやね」 一般局員の手前、敵が<悪魔>であることは隠して話す。 「ジェイル=スカリエッティと<アンノウン>が、これで繋がったわけですか。どうします?」 「どう見ても、こっちを燻り出すのが目的やろ。囮か、データ収集か。いずれにせよ、出撃せんわけにはいかんな」 憂鬱なため息が漏れた。 積極的な犯罪への行動力を求めて設立した機動六課だったが、どうも思うように動けていない。先手ばかり取られている。 焦りすぎか。強者が集まれば何もかも上手くいくなどと思いはしないが……ええい、くそっ。テレビのヒーローのようにはいかない。 爪を噛むはやての元へ、いつの間にかなのはとフェイトが駆けつけていた。 一見普通に見えるが、なのはの表情は相変わらず陰鬱な色を滲ませている。 ティアナが眼を覚ました報告はシャマルから密かに受けたが、やはりまだ問題解決には至っていないらしい。おそらく、顔も合わせていないだろう。 良くない傾向だ、時間はあった筈なのに。珍しく消極的になっている。 「はやて部隊長、出撃しますか?」 逸るなのはを、はやては無言で制した。 その積極さが彼女自身の焦りを隠す為のものだと、はやての中の冷たい思考が推測している。 彼女は任務に逃げ込むことで、自らの苦悩から目を逸らそうとしていた。 そして、待ち人はすぐに現れた。 なのは達とは遅れて司令室に入って来たのはヴィータと、 「ダンテさん!?」 意外な人物の登場に、二人の間から驚きの声が上がった。 会釈代わりにウィンクするダンテを尻目に、はやては淡々と指示を下していく。 「今回の敵襲は何らかの作戦の囮か、あるいはこちらの戦力調査の意味合いが強いと思われる。 よって、空戦能力を持つ少数戦力で出撃、撃破。不測の事態に備えて新人を含む残りの戦力を出動待機とする」 有無を言わさぬ視線で、はやては一同の顔を見回した。 「ヴィータ副隊長は負傷のこともあるから、今回は待機に回ってな」 「了解」 当然の処置か、とヴィータは不満を漏らさずに受け入れた。 「それから、なのは隊長」 「はい」 「アンタも待機な」 「……え?」 ヴィータとは反対に、その全く予想しなかった命令をなのはは一瞬理解出来なかった。 自分の出撃は順当なものだと思っていた。 手の内を見せない少数戦力による敵の迎撃には、空戦能力と基本攻撃力に優れたなのははまず鉄板となる配置の筈だ。 そんな戦術観を無視し、はやては出撃にはフェイトとシグナムで当たるよう指示を追加している。 「ま、待ってください! さすがに二人だけでは……」 「もう一人付ける」 慌てて意見するなのはを半ば遮るようにはやては忽然と告げた。 「ダンテさんを加えた三人で出撃してもらう」 予め聞いていたダンテ本人以外が息を呑んだ。 「そんな……民間人ですよ!?」 「対<アンノウン>の有効な技能と知識を持つ外部協力者として、既にダンテさんとは契約が済んどる。今回は、その有用性がどの程度か測る意味合いも含めて、出てもらうんや」 「はやてちゃん!」 「高町なのは一等空尉」 はやては有無を言わさぬ険しい視線でなのはを睨み付けた。 沈黙がその場を支配する。数寸すぎたあたりで、なのはがぽつりと言った。 「……何故、わたしを出撃から外すんですか?」 「自分で言っててわからへんか? なら、出動待機からも外れてもらう」 はやては全く優しさを含まない固い声で応答し続けた。 「目の前の問題から逃避する為に任務に徹するなら、それは冷静とは言わん。足元を掬われるで……『以前』のように」 フェイトとヴィータが何か言いたげな顔をしていたが、堪える。ダンテは既に傍観に徹していた。 周りの局員達も口を出せなかったが、状況だけは刻々と進み続けている。 モニターに映る敵の姿を一瞥して、はやてはどこまでも事務的な声で命じた。 「フェイト隊長はシグナム副隊長と共に出撃準備。ダンテさんはフェイト隊長のサポートを受けてください」 俯いたなのはを心配そうに横目で見ながら、フェイトは命令に応じる。ダンテも同じく了解の返答をした。 「なのは隊長は、新人を連れてヘリポートへ集合」 「……了解」 なのはの返答は、はやてと何より自分自身への悪態が混じり苦々しいものとなっていた。 ヘリポートに集まった新人達の間には奇妙な空気が漂っていた。 チラチラと隣の様子を伺うスバルの消極的な態度や、鉄の表情で隣の様子に一切頓着しないティアナの無視。それを伺うエリオとキャロには不安そうな表情が浮かんでいる。 そして、そんな四人を尻目に――特にティアナを意図的に視界から排しているなのはが、頑なとも取れる直立不動で出撃するメンバーと向かい合っていた。 「今回は空戦だから、皆はロビーで出動待機ね。特別参加することになったダンテさんの処遇はこの戦闘の結果によって決まるから、後日詳細を教えます」 「そちらの指揮は高町隊長だ。留守を頼むぞ」 フェイトとシグナムの言葉に、ライトニングのメンバーは声高く、スターズのメンバーは覇気無く応えた。 ――なるほど、問題は思ったよりも深刻なようだ。 当事者ではないシグナムは一人納得する。 問題を起こしたティアナと巻き込まれた相棒のスバル、それを管理すべきなのはも含めて、今やチームワークどころかまともな交流すら成り立っていない。 出動待機とは言うが、実質こんな状態のチームを戦闘に出すのは不安が残るだろう。 デリケートな問題は苦手だ。ならば、自分にすべきことは彼女達に時間を与えること。問題に向き合える猶予を与えることだ。 シグナムは自分の性分とスタンスを十分に理解した上で、そう結論を出した。 「……まあ、私ではあまり言葉が回らんからな」 「シグナム?」 「私達には私達のすべきことがあるという話だ」 なのは達の様子を心配そうに見つめていたフェイトの肩を叩くと、シグナムは一足先にハッチからカーゴへと入って行った。 その言葉と、叩かれた肩の意味を考え、フェイトはずっと抱えていた何かを言わなければならないという焦燥感を飲み込んだ。 言えることなど無いのだ。 『……頑張って、なのは』 内心の思いを念話に乗せて飛ばし、フェイトは未練を振り切るようにシグナムの後へ続いた。 発進準備の完全に整ったヘリの前で、ダンテだけが残される。 予想外の展開を見せた模擬戦に始まり、ティアナの敗北、自らの出撃、そして今なのはとティアナの確執を前にしながらも平静な態度を保ち続けていた彼は、やはり落ち着き払って周囲を見回した。 この場で唯一、自分と同じようにどこか達観した様子で構えている赤毛の少女へ視線を向ける。 「それじゃあ、後はよろしく頼んだぜ。ヴィータ」 「オイコラ、なんであたしに言うんだよ?」 「世話好きそうだしな。俺がいない間、こっちを一度も見ようとしない頑固な妹分を上手くフォローしてやってくれ」 苦笑混じりに呟くダンテの言葉に嫌味な響きは無かったが、ジョークとも皮肉とも取れないそれにティアナの肩が僅かに震えた。 彼女が意図して自らの感情を胸の内に封じ込め、誰にも見せようとしない態度は確かに頑なそのものだ。 スバルとなのはの無意識な非難の視線を受けても気にしないダンテのふてぶてしい態度を見つめ、ヴィータはやれやれと肩を竦めた。 「せいぜい上手くはやてに売り込めよ。――オラ、新人ども。ロビーに行くぞ」 戸惑うスバル達を半ば強引に引き連れ、ヴィータはヘリポートから去って行く。 なのはだけが、自然とその場に残る形となった。 なのは自身、ヴィータがそれを意図していたことは無言のやりとりの中で理解している。その気遣いに感謝した。 全てを察しているかのように、まだヘリへ乗り込まないダンテへ視線を向けた。彼と話すことは、今はティアナのこと以外に無い。 「……ティアと打ち解ける為の話題を探してるなら……まあ、何かネタを提供しようか? 好きな食べ物とか、趣味とか」 ダンテが茶化すように言った。のんびりした口調だが、力のこもった声だった。 彼は、ティアナの問題について決して軽く見ているわけではない。この軽薄さは彼なりの気遣いなのだと、なのはは気付き、力無く笑いながら顔を上げる。 「わたしより、ダンテさんが話した方が良いかもしれない」 「何故、そう思うんだ?」 「わたしはティアナを傷つけました」 「アイツは昔から危険なやりとりが好みだ」 「きっと嫌われてます」 「俺も最初はそうだったさ。此処に来るまでの6年間、本当にいろいろあったんだ」 なのはの吐き出す弱音をダンテは穏やかに受け止め続けた。 ただ一つだけ、彼は拒否し続ける。なのはに代わって、ティアナに語りかける事を。 「……わたしは、ティアナの決意を否定してしまった」 おそらくそれがなのはにとってティアナと向かい合えない一番の理由を、沈痛な面持ちで呟いた。 戦う時、自分はいつだって自らの信念を貫いてきた。 だが、久しく忘れていたらしい。自らの意思を通すことは、他人の意志を砕くことなのだと。 同じく忘れていた本気の戦いと対立を経て、思い出していた。 かつて、そして今かけがえのない親友であるフェイトやヴィータ達ともそうだった。しかし、肝心のところが思い出せない。傷つけた相手と、どうやってもう一度手を取り合えるのか。 苦悩するなのはの表情を見つめ、ダンテは頷いた。 「ああ。だからナノハ、お前しかいないんだ。今のティアと話し合えるのは」 驚き、なのははダンテの顔をジッと見つめた。 「ティアの決意が、間違ってると思ったから立ちはだかったんだろ? 俺も止めるべきだと思った。力だけを求める先にあるのは、孤独だ。俺はその前例を知ってる。アイツを独りにはしたくない」 「でも……わたしにとって正しいことが、ティアナに当て嵌まるとは限らない。押し付けているだけなのかも……」 「人としてティアを想った行動だ。正しいかどうかは分からないが――胸を張るべきだと思うぜ。 家族や仲間だと思っているからこそ、間違った道を正してやらなくちゃいけない。魂がそう言うんだ。止めなきゃならない……例えそれが、相手を傷つける結果になっても」 ダンテの最後の言葉は自分自身にも言い聞かせ、心に染み渡らせているようだった。 悲しげで、しかし後悔を抱くことを否定する強い確信に満ちていた。 その瞳が一瞬、なのはを通して遠い過去を見据える。 「……ひょっとして、ダンテさんも?」 なのはの曖昧な質問を、ダンテは正確に捉え、そして曖昧に笑うだけで答えた。 家族や仲間だと思っているからこそ――。 なのははその言葉を何度も心の中で呟き、噛み締め、そうすることで少しずつ自分の中に10年前から変わらず在り続ける信念を思い出し始めていた。 「実の兄貴でね。お前さん達みたいに仲良くなんてお世辞にも言えなかったが……昔、ソイツを斬った」 呟きとため息を同時にダンテは漏らした。 頭の中にどんな光景が回想されているのか。そこに抱く感情はどんなものなのか。察することは出来ない。 「――だが、ティアには出来なかった」 悔いるような声だった。 先ほどのダンテの言葉を聞いた以上、今の彼が抱く感情ならなのはにも分かる。 家族だからこそ。 だが同時に、家族だからこそ『傷つけなかった結果』に悔いなど抱いて欲しくはないとも思っていた。 「だから、俺には今のティアを偉そうに諌めることなんて出来ない――。 とんだ弱味になっちまった。もう俺には、アイツを殴ってでも道を修正してやることなんて出来ないだろう。 『その時』にアイツがどんな眼で俺を見るのか、俺の手に伝わる感触はどんなものなのか。情けないが、怖くてね。少し長く、近くに居過ぎたんだな」 「それって、いけないことですか? ……わたしは、違うと思いますけど」 肯定を求めて縋るようななのはの言葉に、ダンテは苦笑しながら首を振るしか出来なかった。 「俺には、何とも言えない」 気まずげに言葉を濁したダンテを救うように、痺れを切らしたヴァイスが搭乗を急かす声が響いた。 背を向ける。 「ティアを頼む。勝手な押し付けだが」 「……いいえ」 カーゴの中へと消えていく、どこか小さく見える背中を見つめながら、なのはは静かに呟いた。 「わたしにとっても、ティアナは他人じゃないから」 未だ僅かな迷いのある瞳の中、しかし一つの意志が蘇っていた。 足早に皆の――ティアナの待つロビーへと向かっていく。 それまであったティアナを避ける気持ちは驚くほど薄れていた。 まだ何を話せばいいのか分からない。ただ、これは自分がやらなければならない――そんな使命感のようなものを胸に、なのははティアナ達がテーブルを囲うロビーへと足を踏み入れる。 シャリオやシャマルを含めた、全員の視線がなのはに集中した。ティアナの視線も。 ただ一人、ヴィータだけが何もかも分かっていると言うように頷くのが見えた。 「――ティアナ」 臆すことなく口を開く。 「お話、しようか?」 「……はい」 ティアナは静かにその言葉を受け入れた。それだけのことが酷く嬉しい。 「なのはさん、ティアナへの説明なら私から……」 「いいよ。ありがとう、シャーリー」 シャリオの気遣うような言葉をやんわりと断る。 模擬戦の苛烈さを見た者なら不安を感じるのも仕方が無い。 だが、その不安を一身にティアナへ向ける誤解があるまま任せたくはなかった。 ぶつかり合ったもの同士でしか分からない。理解し合えない。あの時の互いの意志は。 だからこそ、自分が向き合うべき問題なのだ。 無言で立ち上がるティアナを傍に控え、なのはは一度だけシャリオに振り返る。 「シャーリー、いつもわたしを信頼してくれてありがとう。 ……でも、今回はそれを裏切る形になっちゃった。ごめんね」 「そんな、なのはさんは間違ってなんて……」 「片方が間違ってれば、もう片方が正しいなんて単純な物事は無い。間違ったんだよ、わたしも。……間違えることだって、あるんだよ」 納得のいかない顔をするシャーリーから感じる信頼を半分喜び、半分辛く感じながら、なのははティアナを伴い、ロビーから立ち去った。 残された者達に出来ることは、ただ待つことだけであった。 「考えてみたら……」 「はい?」 眼下に溢れていた街の灯火が消え、月明かりを反射しながら蠢く黒い海面だけになると、おもむろにダンテは呟いた。 「ヘリに乗るのは初めてだ。無料でベガスのツアーが味わえるとはね。ちょいと景色が殺風景だが」 「呑気な奴だ。緊張は無いのか?」 「緊張ならしてるさ。とびきりの華を両手に、夜空のデートなんだからな」 こうして面を向かい合うのはシグナムにとって初めてだったが、僅か数言交えただけで目の前の男の人となりがなんとなく分かってしまった。 このダンテという男が先のホテル襲撃事件で多大な貢献をしたことは聞いていたが、空中戦を行う技能は無いと自己申告している。 空を飛べない彼が、先の空中に待つ敵との戦闘をどうするつもりなのか? 「肝が据わってるのか、バカなのか」 皮肉るようなシグナムの呟きに、ダンテは肩を竦めるだけ。 自信を込めた無言の笑みが何よりも語る――『まあ、見ていろ』 「面白い奴だ」 初めてシグナムは苦笑を浮かべた。心を許した者だけに見せる表情だ。 どうやら、この軽薄だがどこか憎めない男を堅物な剣士は気に入ったらしい。 その理由が何となく分かってしまうフェイトもまた苦笑を禁じ得なかった。 離陸する前とは比べて、幾分軽くなった空気を感じながら、ヘリの三人は待ち構える戦いに集中していく。残してきた者達は気になるが、それは今は雑念だ。 『間もなく現場空域に到達します。隊長さん方、準備は良いですかい?』 タイミング良くヴァイスの報告がカーゴ内に響く。 三人は顔を見合わせた。 「さて、ダンテ。お前は飛行能力を持たないのだったな?」 「さすがにスーパーマンの真似事は出来なくてね」 「ならば、丁度デバイスも射撃型だ。我々が近接戦闘を行う間、遠距離からの援護という役割でいいか?」 フェイトも同意する妥当な作戦を聞き、ダンテは腕を組んで考える振りを見せた。『振り』である。 もちろん、考えるまでも無く――彼という人物を知る者ならやはり疑い無く、ダンテの答えは決まっている。 「無難だな。だが、止めとこう」 そいつは<スタイル>じゃない。 「もっと良い考えがあるぜ。――Hey! ヴァイス!」 『何か用ですかい、旦那?』 コクピットに繋がるマイクへ声を掛けると、意外なほど気安い返事が返ってくる。 シグナムとフェイトは思わず顔を見合わせた。 「……ヴァイス君と知り合いだったんですか?」 「ああ、もうすっかりオトモダチさ。趣味も合う方でね」 「そういえば、同じ射撃型デバイス持ちだったな」 「それに、うちの妹分が世話にもなった。切欠はそこからだな」 『お節介を焼いただけですよ』 「ついでに色目も使ったな。手を出したら殺すぜ」 『……肝に銘じときますよ』 「GOOD」 途端に神妙になる声に、ダンテは満足げに頷いた。 確かに、短い時間でも十分な友好関係は築けているらしい。その力関係も含めて。 「OK、気を取り直して俺のプランだ。 このまま敵の固まってる場所より上空を飛んでくれ。出来れば真上がベストだ。見つからないように距離を取れよ」 『了解』 気を取り直してダンテが告げる。 この場で彼にヴァイスへの命令権など無いが、誰もが自然とそれに違和感や反感を感じなかった。 その態度と言葉から溢れ出る根拠の無い自信が、不可解な期待を抱かせるのかもしれない。この男は何かやってくれる、と。 『目標地点に到着。ピッタリ、敵の真上です』 「ハッチを開いてくれ」 程なくしてヘリは上昇と移動を終え、敵にすら気付かれない遥か高高度へと到達する。 ハッチが開くと同時に強烈な風がカーゴ内を巻く中、ダンテは涼しい顔をして眼下を見下ろした。 ガジェットと思わしき光源が羽虫のように飛び回っている。 「――それで、次は?」 シグナムの問いに、身を乗り出していたダンテは振り返った。 風がダンテの体全体を煽り、月光に鈍く輝く銀髪が乱れる。形ばかりのバリアジャケット代わりとして羽織った六課制式のコートがはためいた。 「OK、次はこうだ。しっかり踏ん張って、掛け声を掛ける」 「掛け声?」 ニヤリ、と。不安になるような悪戯っぽい笑みが浮かんだ。 「ああ、そうだ。こうやってな――ジェロォォニモォォォッ!!」 景気付けとばかりに大声を張り上げ、両手を広げてダンテはそのまま夜空へ向けてダイヴした。 「えええええっ!?」 「バカか!」 慌ててハッチから下を覗き込めば、あっという間に小さくなっていくダンテの背中があった。 スカイダイビングの要領で、両手足を広げて速度を調節しているようだが、飛行魔法もパラシュートも持たない彼を最後に待つのは地面との熱烈なキスとその後のミンチだ。 もちろん、これがダンテの単なる自殺行為なハズはないだろう。 「何か考えがあるのだろうが……クソッ、それでも正気か?」 シグナムの悪態の答えなど分かり切ったものだった。 少なくともダンテの旧知ならば、ティアナを代表として全員が口を揃えて言うだろう。 ――『いいや、イカれてる』 「とにかく、私達も行かないと……! ライトニング1、行きます!」 近くにいれば最悪の事態にも対処出来る。そう判断し、フェイトはすぐさま自らも出撃を決意した。 待機モードのバルディッシュを取り出し、ハッチに足を掛ける。 それから何故か少し躊躇う姿を、シグナムは訝しげに一瞥して、 「じぇ、じぇろにもぉー!」 律儀にもダンテの行っていた掛け声をたどたどしく真似しながら、フェイトは空中へと飛び出した。 「……ライトニング2、出るぞ」 その素直さと天然の入ったライバル兼親友の姿にため息を吐きながら、シグナムもまた追うように飛ぶのだった。 耳元を空気が唸り声を上げて通り過ぎていく。 重力に引かれるまま、徐々に加速していく落下に対してダンテは僅かな恐怖も抱いていなかった。 このまま地面に激突するなんてヴィジョンは脳裏に欠片も浮かんでいない。 問題ない、高い所から落ちるのは慣れている。 暗黒の空をダイビングしながら、ダンテは視線の先に飛び交う敵影を捉えた。 落下し続け、距離の詰まりつつある現状でもまだ豆粒程度にしか見えない敵に早速先制攻撃を開始する。 広げていた両手を体に沿って伸ばし、頭から弾丸のように落下する体勢で加速を得ると、そのまま一回転して器用に頭の位置を下から上に変えた。 足から落ちていく形。その下に蠢く敵へ向けて、デバイスの銃口を向ける。 「Let s Rock!」 お決まりの台詞を吐き捨てると、両腕の銃口が火を吹いた。 超高速・高圧縮の魔力弾が動き回る小さな的を、狙い違わず貫通する。爆発、そして散華。夜空に開戦の花火が広がる。 「BINGO!」 文字通り、一気に火が付いた。 ダンテの顔に浮かぶ笑みは深く、獣が牙を剥くそれへと一瞬で変貌し、暗い闘争心が燃え上がる。 今、この夜空に存在するのは家族同然の少女を案じる兄貴分の男ではなく、悪魔を狩ることにおいて右に出る者はいない最強の狩人であった。 旋回する集団のど真ん中で起こった爆発に、敵の意識が一斉に上空から迫るダンテへ向けられる。 無機質な戦闘機でありながら、表面にへばり付いた生体部分でギョロギョロと動く眼球から感じられるハッキリとした<視線> 常人ならばその薄気味悪さに背筋の凍りつくような感覚も、ダンテにとってはむしろ馴染み深く、得体の知れない機械を相手にするよりは幾分やりやすい。 奴らの狩り方は熟知している。 「Show time!」 旋回行動を止め、回頭して機首をこちらに向けた敵へダンテはすぐさま第二射を放った。 しかし、さすがはこちらと違って空を飛ぶ為の体。ガジェットの群れは弾幕へ飛び込む形で上昇しながらも各々回避行動を取る。 撃ち返される熱線、無数。超派手。 「Fooooow!!」 ナイトスタジアムで出すような歓声。迫り来る脅威を目の前にして、ダンテの理性が弾ける。最高のスリル。 何も無い空間をキック。だが、靴底には確かな手応え。 無意識に発生した瞬間的な魔方陣の足場を蹴って、落下する軌道を強引に捻じ曲げる。 急激な横移動の一瞬後には、傍らを掠めるように熱線が通り過ぎていった。 続けて迫り来る熱線。キック。別の熱線。キック。熱線。キック。キック。 <エアハイク>の文字通り、空中を歩くような自在な動き。小刻みに跳ね回ることでダンテは敵の弾幕をすり抜けていく。 ティアナが使用する魔法の応用とは違う、完全なスキル。いちいち術式を組み直す必要などないからタイムラグもずっと短い。 それでも空中で高度を維持できるほど連続は出来ない為、ダンテの体はどんどん落下してく。縮まる敵との相対距離。互いの速度も反応の猶予もどんどんシビアになっていく。 「Yeaaaaaah!」 その刹那のスリルがたまらない。 ダンテは嬉々として敵中に飛び込んでいった。 狭くなる視界の中を超高速で飛び回る敵影。かすんで見えるそれらの影から一つを選んで、舌なめずり。 距離が縮まる。 ――3 またも器用に体勢を変えて、狙った標的に体当たりするような軌道と加速で接近する。 ――2 標的のガジェットもこちらの狙いに気付いたか、すぐさま回避行動。衝突しない軌道を取る。 ――1 そしてダンテ、直前で、キック。 驚異的な動体視力でガジェットの機動に追従したダンテは、狙い違わず標的を捉えた。 ――コンタクト。 激突。 「失礼、ちょいと便乗させてもらうぜ」 船体に蹴りを加えるような着地を成功させたダンテは、自分を睨みつける寄生型ガジェットの眼球にウィンクを返して見せた。 思わぬ重量を背負ってふら付きながらも、ガジェットは張り付いた敵を振り落とす為に無茶苦茶な機動を始める。 「Wow.Ho,Hooooo!!」 ダンテはそれをまるで荒波に揉まれるサーフボードよろしく乗りこなしていた。 バランス感覚だけではどうにも出来ないようなでたらめな動きの中で、振り落とされるどころか他のガジェットへ向けてデバイスをぶっ放す。 超高速の空中サーフィンをこなしながら、歓声すら上げて周囲の敵を次々と撃ち落してく様はクレイジーとしか表現できない光景だった。 しかし、その狂った曲芸も唐突に終わる。 熱線がダンテの足元を貫いた。味方を斬り捨てる機械的な判断により、足場となっていたガジェットが同じガジェットの攻撃によって破壊される。 機体の爆発に煽られ、吹き飛ばされたダンテは当然落下するしかない。 「なかなかクールな判断だ」 落ちていく感覚を他人事のように感じながら、ダンテは呟いた。 飛行能力が無い以上、ガジェットの跳ぶ高度より下に落ちてしまえば、あとは地面に激突するまで止まらない。 「何をやってるんですか!?」 全身をリラックスさせて落ちるがままに任せるダンテの元へ、金色の光が瞬時に駆けつけた。 ガジェットの敵中をすり抜け、フェイトは落下するダンテの腕を掴んですぐさま上昇する。 「後先考えずにバカな真似をしてっ! あのまま落ちたらどうなるか分からないんですか!?」 ぶら下がった体勢のまま激昂するフェイトの整った顔を見上げて、少し思案するように乾いた唇を舐める。 「信じてたよ」 「そ、そんな取り繕った言い訳してもダメです!」 赤面するフェイトを視界の隅に収めながら、ダンテは後続のシグナムと交戦を始めたガジェットの残りを確認した。 かなり撃墜したはずだが、まだ数は多い。 「まだ食べ放題ってわけだ。フェイト、敵に向かって飛んでくれ」 「もうっ、人の話を聞かないんだから!」 不満そうに頬を膨らませながらも、戦闘中であることを理解しているフェイトはダンテをぶら下げたまま敵中へ突っ込んだ。 「ベイビー、俺のやり方は分かってるな? 適当な獲物に向かって投げてくれ!」 「もうっ、滅茶苦茶!」 呆れたような悪態と共に、加速をつけてダンテを一体のガジェットに向けて投げつける。 高速で飛来するダンテの弾丸のような蹴りを受けて、船体が大きく軋んだ。そのままゼロ距離でデバイスを足元に撃ち込む。 機体の爆発を利用して、ダンテは跳んだ。 追いついたフェイトが再度伸ばされた腕をキャッチする。意図せぬ完璧なタイミング。以心伝心。互いに意識せず体がシンクロする。 向かい合った二人。一瞬だけ視線が交差した。 「ターンだ!」 背中から迫る敵を感覚で、フェイトの肩越しに背後から迫る敵を視界で捉えたダンテが繋いだ手を強く引いた。 お互いに位置を入れ替えるダンスのようなターンを決めて、フェイトの斬撃とダンテの射撃が各々の標的を撃破する。 二つの爆光を受け、ダンテは思わず口笛を吹いた。 腕を引き、フェイトの体を引き寄せると、もう片方の手を腰に回す。 「いいね、危険な女は嫌いじゃない」 鼻が触れ合うほどの距離で恋人にそうするように囁くと、フェイトの顔が一瞬で沸騰した。意味不明な音が口から漏れる。 「いいい、今は戦闘中ですよっ!?」 「分かってるさ。ダンスの再開だ」 「ならば、こちらのダンスにも付き合ってもらおうか」 死角から迫っていたガジェットをレヴァンティンで貫き、何食わぬ顔でシグナムがダンテの首筋を引っ掴んだ。 「OH、強引なお誘いだ」 「生憎と踊りを嗜む趣味はないのでな。せいぜい振り回すだけだが、構わんな?」 聞いたことのある台詞だった。目の前の美女の半分くらいの背丈の少女が同じ笑みを浮かべていたのを見た気がする。 何処か凄惨さを感じさせる戦士としての笑み。だが、危険な匂いのする女の笑みは得てして男を魅了するものだ。 ダンテも思わず笑みを返すと、シグナムの方を向いたままあらぬ方向から迫るガジェットを正確に撃ち抜いた。 「もちろん、喜んで。やっぱり今夜は両手に華だな」 「お前の性格は大体把握した。合わせてやるから、適当にやれ」 「シグナム! ダンテ! 来るよ!」 いつの間にか随分と気安い口調になってしまったのを、フェイト自身は自覚していないだろう。 反転し、一斉に襲い掛かるガジェットの残党を視界に納め、各々が自らの武器を構える。 「来いよ、ベイビー! キスしてやるぜ!」 両手に美女。夜空でダンス。最高の機嫌とテンションで、ダンテは迫り来る敵を嬉々として迎え撃った。 普段訓練に使う人工の浮島がある沿岸沿いを、なのはとティアナはゆっくりと歩いていた。 まだそう長くは歩いていないが、隊舎を出てからここまで一言も交わしていない。二人とも相手に掛ける第一声とそのタイミングを測りかねているのだった。 歩く先に目的地など無い。きっとこのまま歩いていたら、夜が明けるまで隊舎の周りをグルグル歩き回る羽目になるんだろうな、と。 そこまで考えて、なのはは自分の想像に思わず吹き出しそうになった。 笑いを堪えるなのはの横顔をティアナが不審そうに見ている。 なのはは誤魔化すように咳払いをして、視線を夜空に泳がせた。 「……この空の先で、もうフェイトちゃん達は戦ってるんだろね」 何気ない呟きだったが、それが話の切欠になるのだと気付く。 散々思い悩んだ挙句、あっさりと話を切り出せたことに苦笑しながらなのははティアナに視線を移した。 「……教導官は、出撃に参加すると思ってました」 「うーん、ちょっとね。駄目出し受けちゃった。今のわたしじゃ不安で任せておけないって」 なのははおもむろに歩みを止めた。それに合わせるようにティアナも。 「自分が何も出来ない無力感って、ホント嫌なものだね」 「はい」 「ティアナが感じていたものが、その時の焦りが、何となく分かった。だから、力が欲しいっていう気持ちは……」 そこまで舐めらかに話していたなのはは、突然何かが喉に支えたかのように言葉を閉ざした。 口の中で何度か言葉を反芻して、それから困ったように笑う。 「……なんだろうなぁ、実はいろいろ考えてたんだよ? ティアナと面と向かったら、どういう言葉で話を進めようか。頭の中にたくさん用意しておいたのに」 「ポケットの中にスピーチ用の紙があるなら、どうぞ使ってください。気にしませんから」 「ダンテさん仕込みのジョーク? ティアナって結構毒あるよね」 「すみません」 二人は苦笑し合った。間にあったぎこちなさが薄れていく気がする。 こうして、当たり障りの無い会話をしながら、模擬戦での出来事を全て曖昧にしてしまいたい欲求になのはは駆られた。 だが、それは逃げである、と。 あの時ぶつけ合った言葉は、意志は、確かに本物で本音だったのだ。もう誤魔化すことは出来ない。 いつの間にか、二人の笑い声は消えていた。 顔を見合わせ、お互いの痛ましく感じる笑顔を一瞥すると、どちらが促すこともなく道沿いの斜面に腰を降ろす。 「……用意していた言葉が、どれも軽く感じるよ」 すぐ隣に座るティアナを見れず、なのはは彷徨わせていた視線を結局空に向けた。 「結局、あの時模擬戦で思うままに叫んだ言葉が何よりも本音だった気がする。 今回のことで、自分の教導の甘さに気付いたよ。人が人に教えるんだもん、教える相手にも色んなタイプがいるよね。 誰も不満を言わなかったからって、全部同じ手順で済ませようとしたわたしの未熟だよ。ティアナと同じ目線に立って、ようやくそれが分かった」 「私も、あの時自分は頭を冷やすべきだったと思います」 「お互い、まだ未熟だったってことだね」 「でも、あの時起こったことが……無ければよかったとは、思いません」 そこで、なのはは初めてティアナの眼を見た。 「私の本気に、本気で応えてくれた。嬉しかったです」 「憎んでるんじゃない? 理由はどうあれ、わたしはティアナの本気の想いを否定したんだよ」 「私のことを想って、ですよね。今なら、それがどれ程幸せなことなのか分かります」 「お節介じゃない?」 「あの時は、迷惑だとか言ってすみませんでした。部下として信頼してくれてるから、あそこまでしてくれたんですよね」 「仲間として、想ってるよ」 「あ、いや、それは……恐縮です」 にっこり笑って断言するなのはの顔を直視できず、ティアナはそっぽを向いて鼻の頭を掻いた。 伝え合った本音が、お互いの心へ清流のようにスッと染み渡っていく。 二人して再び空を見上げる形になり、しばらく間を置いてそっとティアナの様子を伺った。 なのはは彼女が考えに耽っているのを見て取った。初めて会った時からずっと、思慮深く、感受性の強いティアナはその冷静な態度の奥で多くのことを考え、想い、悩んでいる。 自分はその一端に触れる貴重な経験をしたのだ、と。何か妙な誇らしさを感じずにはいられなかった。 あらゆる弱味や問題を自身の力のみで解決してしまう程決断力の高い少女が、こうして僅かにでも心を曝け出す人間はそう多くないだろう。 「あの」 不意にティアナが切り出した。 「もう必要ないのかもしれないけれど……もうちょっと話したいことがあるんです」 「うん」 「今更なのかもしれないけど、死んだ兄のことで。特に意味は無くて、ただの昔話なんですけど。別に同情を買おうとか、変な意味じゃなくて、ただ……」 「うん、わたしも聞いておきたい。ティアナのこと、少しでも知りたいから」 「……ありがとう、ございます」 恥ずかしそうに俯くティアナの頬は少しだけ赤かった。 そのまま地面を見つめ、なかなか口を開こうとはしなかったが、なのはは根気強く待った。 やがて顔を持ち上げ、その視線を遠い昔に向けたティアナは静かに語り始めた。 「ある晩、兄が夕食の時に言ったんです。『お前に義姉が出来るかもしれない』 とんでもない発言でしたが、当時の私にもその意味は分かりました。 兄は、その発表に私が喜ぶ反応しか見せないと信じ切っていて、とにかく分かりやすくだらしない顔でしたね。 両親が亡くなってから、ずっと仕事と私の世話でそういう……兄に女性の影なんて全然見えなかったら、ショックでした。 その女性についていろいろ話すんですけど、どんな良心的なイメージを思い浮かべても、その人が自分の姉になるなんて、信じられなかった。兄が取られると、子供らしく単純に思いました」 ティアナは時折懐かしむような笑いを混ぜながら語り続ける。 「相手の女性は同じ管理局員で、自分が局員になった後に顔を知りましたが、キャリアウーマンって感じの美人でした。防衛長官の実娘だそうです。秘書をやってるとか。 完璧なエリートで、今思えばどうやってヒラである兄と知り合ったのか疑問ですが、兄がそんなに女性に対して強くないことを考えれば、そこまで行き着いた努力はかなりのものだったんでしょう。 そもそもどんな切欠で女性に声を掛けようと思ったのか……。まあ、時期を考えれば、影響しそうなのは一人しかいないんですけどね。 丁度、兄とダンテが知り合ったらしい時期でした」 あの女性に対して特に好意的で気安い態度を思い浮かべて、なのはは容易く納得出来た。出来すぎて、思わず笑ってしまうほどだ。 「そしてその夜は、奇跡的にデートの約束まで取り付けた日だったとかで。 兄は調子良く私に話すんですけど、もちろん当時の私は全然面白くなくて、ただ不機嫌さに気付いてもらえるよう表情に出して相槌をするだけでした。 そこで、兄にその女性から電話が繋がったんです。多分、その当日の話か何かで。 私はチャンスだと思い、通話する兄のすぐ傍でこう叫んだんです。『お兄ちゃん、その人も恋人なの? さっきの女の人は違うの?』って」 「悪い妹だね」 顔を顰めながらも笑いの堪えられないなのはに、ティアナは意地悪く微笑んで見せた。 「最悪のガキだったと思います。 怒鳴り声はなくて、何か数言聞こえたかと思ったら、電話が切れました。 呆然とした兄が残されて、それからどうなったかは……分かりません。ただ、しばらく兄は落ち込んでましたけど」 長い話を終えると、ティアナは大きく深呼吸して追憶の余韻を味わった。 掘り起こされた思い出が心を暖かくする。 しかし、浮かんでいた柔らかい笑みは気が付けば元に戻っていた。 「……その次の月でした。兄が死んだのは」 ティアナが静かに告げた。 「あの時、私が邪魔をしなければ兄は、ずっと私の世話で味わえなかった人生の楽しみを少しは味わえたかもしれない――。 そう考えて後悔を感じることが、度々あります。ほんの些細なことなのに、思い出して悔いに繋がる。 失った人に対して、もっと何かしてあげられたんじゃないか? でも、もう絶対に何もしてあげられない。それを実感する度に人の死の重さを感じます」 「ティアナ……」 「兄が好きでした。父親の姿をよく覚えていないから、憧れも、誇りも、全部兄の背中に感じていた……」 僅かに聞こえた鼻を啜る音に、なのはは敏感に反応した。泣いている? だが、伺ったティアナの横顔はただ何かを堪えるように慄然としていた。彼女は頑なに弱味を見せようとしない。 「その兄が死んだ時――その死に対して『役立たず』『無能』と烙印が押された時、私の人生は決まりました」 「……お兄さんは、それを望んでいたかな?」 ティアナを怒らせることになるかもしれない。しかし、問わずにはいられない。 なのはの言葉をティアナは意外なほど呆気なく受け入れ、疲れたように首を振った。 「分かりません」 「スバル達は、そんなティアナの生き方を心配してる」 「私は、恵まれてると思います。本当に、そう思います。だけど……」 少しずつ、ティアナの声に余裕が無くなり始めていた。 何かが沸々と腹の底から湧きあがってくる。そのワケの分からない感情のうねりが、熱となって鼻と目を刺激した。 ティアナは必至でそれを堪えようとした。 「だけど……っ」 なのははティアナの膝の上に手を伸ばして彼女の手を取った。 ここで話すのを止め、打ち明けようとした感情と言葉を全て封印しようかと考えていたティアナはその手の暖かさに背を押された。 「兄は殺されたのだという事実を、忘れられない……っ。その死が無駄だったと、悼まれもしなかったあの時の光景が忘れられないっ」 嗚咽を噛み殺し、溢れそうな涙を押し留めながら、ティアナは必死で想いを吐き出した。 「悔しいんです……っ! 兄の無念に、何でもいいから報いたい。この気持ちを時間と共に少しずつ忘れながら、のうのうと生きていくなんて耐えられない。 許すことなんて出来ない。例えこの命を賭けてでも、あたしは……誓いを果たす! 絶対に! それだけの意味があるっ!!」 「……だから、強くなりたいんだね?」 「なりたいです……強くなりたいですっ。あたしは、強く、なりたいです……<なのはさん>」 なのはは胸の詰まる思いだった。 彼女がきっと誰にも見せたくないだろう弱さに崩れた本当の素顔を隠すように胸に押し付け、抱き締める。強く。 ティアナはただ黙ってなのはの背中に手を回した。なのはも、ただ強く抱き締める以外のことが出来なかった。 経歴からティアナの力を求める理由を理解したつもりだった。 だが、所詮『つもり』だったのだ。 彼女の吐露した痛く、苦しく、その命を賭けるほど決死の意志に対して、諭す言葉など何も思い浮かんでこない。 ただ無力と共にティアナを抱き締めるしかない。 「ああ……強くしてあげるよ。ティアナ、わたしがアナタを強くしてあげる。絶対に!」 「なのは、さん……」 「でも、一つだけ約束して! 命を賭けるほどの覚悟は分かる。もう止めない。だけど、その瞬間まで……お願いだから自分の命を惜しんで。 わたしは、ティアナに死んで欲しくない。本心だよ。わたしだけじゃなく、スバルも、他の皆もティアナの幸せを願ってる。それぞれがそれぞれを想い合ってる。 その絆の中にティアナがいるっていうことを……絶対に、忘れないで」 ティアナは目に涙を溢れさせながら頷いた。 「お兄さんがアナタの心に遺したように、ティアナの死は絶対に他の誰かの心に傷を遺すから。わたしにも――」 「はい……はい……っ」 それ以上、何も言えなかった。押し寄せる感情のうねりに胸が詰まって、言葉が出てこなかった。 ただ、その時。なのはの腕に抱き締められながら、今この場で彼女以外の誰も自分を見ていないことを悟ると、ティアナは何かに許されたような気がして。 数年の時を経て、自らに泣くことを禁じていた少女は初めて、ただ――泣いた。 to be continued…> <ティアナの現時点でのステータス> アクションスタイル:ガンスリンガーLv2→ LEVEL UP! →Lv3 NEW WEAPON!<クロスミラージュ・ダガーモード> 習得スキル <ファントムブレイザー>…遠距離用精密狙撃砲。最大クラスの攻撃力だが、魔力消耗量も激しい。 <オプティックハイド>…幻術魔法の一種。短時間だが姿と気配を消すことが出来る。修練不足の為、他のスキルとの併用は不可。 <フェイクシルエット・デコイ>…本来は幻影を生み出し、操作する高位魔法。修練不足の為、自分自身の幻影を一体のみ、しかも数秒しか維持できない。用途は主に攻撃のミス誘発。 <ガンスティンガー>…銃剣タイプのダガーモードで突進し、魔力をチャージした刃を敵に突き刺す近接技。障壁貫通効果もある。 <ポイントブランク>…ガンスティンガーの後にゼロ距離でチャージショットを叩き込むクレイジーコンボ。ダメージ大。 <???>…デバイスの新モードが解禁された。技能は発展する、更なる経験とオーブを集めよ。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/fable3/pages/19.html
コスチューム スーツ男女別物 男女兼用 DLC シェフ帽 ひげ タトゥーセット ヘアスタイル メイクアップ コスチューム スーツ 男女別物 男性用 パーツ 女性用 備考 パジャマスーツ ブライトウォール(販売) ナイトキャップ 頭 ナイトキャップ ナイトシャツ 上半身 ナイトシャツ パジャマズボン 下半身 ドロワーズ ベッドソックス 足 スリッパ 王子/王女のスーツ(正装) バウワーストン市場(販売) 頭 王女の帽子(正装) 王子のジャケット(正装) 上半身 王女のコルセット(正装) 王子のグローブ(正装) 手 王女のグローブ(正装) 王子のズボン(正装) 下半身 王女のスカート(正装) 王子のブーツ(正装) 足 王女のサンダル(正装) 王子/王女のスーツ(普段着) バウワーストン市場(販売) 王子のジャケット(普段着) 上半身 王女のブラウス(普段着) 王子のグローブ(普段着) 手 王女のグローブ(普段着) 王子のズボン(普段着) 下半身 王女のスカート(普段着) 王子のブーツ(普段着) 足 王女のブーツ(普段着) 山の民のスーツ 山の民のキャンプ(販売) 山の民のバンダナ 頭 山の民のバンダナ 山の民のコート 上半身 山の民のコート 山の民のグローブ 手 山の民のグローブ 山の民のズボン 下半身 山の民のズボン 山の民のブーツ 足 山の民のブーツ 追いはぎのスーツ ブライトウォール(販売) 追いはぎの帽子 頭 追いはぎの帽子 追いはぎのコート 上半身 追いはぎのコート 追いはぎのグローブ 手 追いはぎのグローブ 追いはぎのズボン 下半身 追いはぎのズボン 追いはぎのブーツ 足 追いはぎのブーツ 傭兵のスーツ ブライトウォール(販売) 傭兵の帽子 頭 傭兵の帽子 傭兵のジャケット 上半身 傭兵のジャケット 傭兵のグローブ 手 傭兵のグローブ 傭兵のズボン 下半身 傭兵のズボン 傭兵のブーツ 足 傭兵のブーツ 戦士のスーツ バウワーストン市場(販売) 戦士の帽子 頭 戦士の兜 戦士のコート 上半身 戦士のコート 戦士のグローブ 手 戦士のグローブ 戦士のズボン 下半身 戦士のズボン 戦士のブーツ 足 戦士のブーツ 魔術師のスーツ オーロラの街(販売) 魔術師の帽子 頭 魔術師の帽子 魔術師のコート 上半身 魔術師のコート 魔術師の小手 手 魔術師の小手 魔術師のズボン 下半身 魔術師のスカート 魔術師のブーツ 足 魔術師のブーツ 仮面舞踏会のスーツ クエストで入手(自分の性別の物)orバウワーストン市場(期間限定で販売) 仮面舞踏会の帽子 頭 仮面舞踏会の帽子 仮面舞踏会のマスク アクセサリー 仮面舞踏会のマスク 仮面舞踏会のコート 上半身 仮面舞踏会のコルセット 仮面舞踏会のグローブ 手 仮面舞踏会のグローブ 仮面舞踏会ズボン 下半身 仮面舞踏会のスカート 仮面舞踏会の靴 足 仮面舞踏会の靴 王/女王のスーツ クエストで入手(自分の性別の物)orバウワーストン市場(期間限定で販売) 王の冠 頭 女王の冠 王のジャケット 上半身 女王のジャケット 王のグローブ 手 女王のグローブ 王のズボン 下半身 女王のスカート 王のブーツ 足 女王のブーツ 男女兼用 パーツ 男女兼用 備考 ニワトリスーツ 初期ブライトウォール(販売) 頭 ニワトリスーツ(頭) 上半身 ニワトリスーツ(胴) 手 ニワトリグローブ 足 ニワトリスーツ(足) 兵士のスーツ 男性用女性用の表記が無いのでおそらく兼用嘆きの森デーモンの扉報酬 上半身 兵士のスーツ 手 兵士のローブ 下半身 兵士のズボン 足 兵士のブーツ シェフ帽 下記のシェフ帽の項目を参照 頭 シェフ帽 DLC 実績「コスチューム フリーク」対象外 男性用 パーツ 女性用 備考 オーロラのスーツ リミテッドエディション限定DLC実績対象外 オーロラの帽子 頭 オーロラの帽子 オーロラの胴着 上半身 オーロラのコルセット オーロラの小手 手 オーロラの小手 オーロラのズボン 下半身 オーロラのスカート オーロラのサンダル 足 オーロラのサンダル ハイランダーのスーツ 新品封入DLC実績対象外 ハイランダーのかぶり物 頭 ハイランダーのかぶり物 ハイランダーの上着 上半身 ハイランダーのコルセット ハイランダーの小手 手 ハイランダーの小手 ハイランダーのキルト 下半身 ハイランダーのキルト ハイランダーのブーツ 足 ハイランダーのブーツ 犬のスーツ(男女兼用) マーケットプレイスDLC(160MSP)実績対象外 犬のスーツ(頭) 頭 犬のスーツ(頭) 犬のスーツ(胴) 上半身 犬のスーツ(胴) 犬のスーツ(前足) 手 犬のスーツ(前足) 犬のスーツ(後足) 足 犬のスーツ(後足) セクシーなスーツ Traitor s Keep Quest Pack宝箱から回収下半身が男女で若干異なる セクシーなビスチェ 上半身 セクシーなグローブ 手 セクシーなストッキング 下半身 セクシーなブーツ 足 砂の怨霊のスーツ Traitor s Keep Quest Pack宝箱から回収 砂の怨霊のフード 頭 砂の怨霊の上着 上半身 砂の怨霊のグローブ 手 砂の怨霊のズボン 下半身 砂の怨霊のブーツ 足 囚人のスーツ Traitor s Keep Quest Pack宝箱から回収上半身が男女で若干異なる 囚人のバンダナ 頭 囚人の上着 上半身 囚人の手錠 手 囚人のズボン 下半身 囚人のブーツ 足 看守のスーツ Traitor s Keep Quest Pack宝箱から回収 看守の兜 頭 看守の上着 上半身 看守のグローブ 手 看守のズボン 下半身 看守のブーツ 足 シェフ帽 入手方法 宝箱、発掘 バウアーストーン城のコックと結婚し、ギフトとして貰う 即位後は結婚しなくても、何度も覗きに行けば、ギフトとして貰える ひげ 名称 入手方法 あごヒゲ(普通) あごヒゲ(結う) オーロラの街(販売) あごヒゲとくちヒゲ くちヒゲ(普通) 販売、宝箱など くちヒゲともみあげ ほおヒゲとあごヒゲ 傭兵のヒゲ クエストで入手 タトゥーセット 名称 入手方法 オーロラのタトゥー リミテッドエディション限定DLC 王家のタトゥー バウアーストーン市場(販売) ギルドのタトゥー 古代王国のタトゥー サイスのタトゥー 自然のタトゥー 嘆きの森(販売) ハイランダーのタトゥー 新品封入DLC 山の民のタトゥー 山の民のキャンプ(販売) 傭兵のタトゥー 販売、宝箱 ヘアスタイル 名称 入手方法 ウェービー ショート 販売 ショート カット(前髪あり) ショート ヘア(男) 初期(男英雄)販売 ショート ヘア(女) 初期(女英雄)販売 ショートポニー ボブカット 前剃りドレッド オーロラの街(販売) まとめ髪(お団子) まとめ髪(ショート) まとめ髪(ロング) モヒカン オーロラの街(販売) ロングヘア ロングヘア(もっさり) メイクアップ 名称 入手方法 異国のメイク オーロラの街(販売) インク汚れのメイク オーロラの街(販売) おてもやん風メイク 宝箱販売? 貴族のメイク バウアーストーン市場(販売) ゴシック風メイク 個性派メイク オーロラの街(販売) ジョーカーのメイク 販売 白塗りのメイク 販売 ダンサーのメイク ブライトウォール(販売) 道化のメイク 盗賊のメイク 傭兵のキャンプ(販売) 華やかなメイク 発掘宝箱、販売? 反逆者のメイク 傭兵のキャンプ(販売) 控えめなメイク 販売 魅惑のメイク 発掘宝箱、販売? 山の民のメイク 山の民のキャンプ(販売) 傭兵のメイク 傭兵のキャンプ(販売) 伝統のメイク バウワーストーン倉庫内宝箱